建築の省エネは削減余地が少ない“乾いた雑巾” 切り札は「エコチューニング」と「AI」:ファシリティマネジメント フォーラム2024(3/3 ページ)
国の省エネ目標では、オフィスビルや商業施設などで、2030年度までに2013年度比で51%のCO2排出量を削減が求められている。建物の運用管理を担うファシリティマネジメント(FM)にとって、現状のままでは達成は容易ではないが、その切り札となるのが「後付け可能なエコチューニング」と「省エネAI」だという。
自律型AIで既存建物の省エネ性能のポテンシャルを引き上げる
第3部は、再び伊東氏が登壇。サービス導入例を示しながら、アドダイスのソロモンテクノロジーAIの特徴について説明した。
伊東氏は、あらゆる場所にセンサーが張り巡らされ、膨大な量のデータがやりとりされる社会では、自律型AIが求められるとの認識を示した。自律型AIは伊東氏によると、「人体の自律神経のように、さまざまな情報の1次処理を一手に引き受け、環境と管理対象のクセを自ら再学習し続けるAI」のことだ。
いまや建物にもさまざまなセンサーが取り付けられており、増え続けるデータをいかに処理するかは、施設管理の現場にとって悩ましい課題となっている。施設管理室では異なるベンダーの異なる世代の製品ごとに用意されたPCとモニターが増え続け、その管理は現場の負担となっている。
伊東氏は、「現在は、現場オペレーターの職人技という属人的スキルに依存しながら運用している。大規模施設では管理エリアが広く、管理する項目も複数あるが、モニターが多すぎてローテーションして切り替えないと全てを監視できない。さらにモニターの数値をもとに、設備最適化の判断をリアルタイムかつ同時並行的に行うことは、人の力では限界がある」と指摘する。伊藤氏は、現場の課題を整理したうえで、解決できるソリューションがソロモンテクノロジーAIだと続けた。
ソロモンテクノロジーAIは、既存建物の価値を向上させるソリューション。AIが空調制御などを自動化することで、空間は今以上に快適になる。予兆も検知し、メンテナンス周期を最適とするため、必要なタイミングで修理や交換などを行い、機械寿命が延び、メンテナンスコストを抑えることにつながる。
導入しやすさも特徴で、ノーコードのプログラムレスで、AIが自動で監視システムの操作を代行するため、現場の人が既存施設で稼働中の監視システムの仕組みを説明できなくても導入が可能だ。施設で収集されている多様なデータをAIが横断的に分析し、エネルギー利用を最適化することで、空間の快適性を維持しながら、環境負荷を低減し、省エネや脱炭素につなげられる。データの蓄積がない施設でも、AIの調整で、単純なオン/オフ制御に比べ、年間を通じたエネルギーコスト削減に寄与する。
センサーの種類や設備の構成は限定しない。監視システムを操作できるPCとインターネット環境があれば利用できるため、既存設備を一新する巨額のハードウェアへの初期投資は不要となる。サブスクリプションサービスなので、月額利用料のみで使えるのもメリット。
ソロモンテクノロジーAIの主な特徴。他にも、人の感覚的な「さじ加減」をゲージで見える化し、ツマミを操作するだけで「快適さ重視」か「省エネ重視」かをAIが判断する操作性の良さ、AIが現場の環境を学習し続けるため導入後に最適化が一層進んでいくという将来性などの特徴がある 出典:アドダイス、エス・ビー・エス発表資料
既に、ソロモンテクノロジーAIを導入して効果を挙げている現場もある。横浜市の鉄道グループ施設では、エネルギー利用量を8.6%削減(冬期に限れば15.8%の削減)に成功。施設テナントからの空調に関する改善リクエストが5分の1に減り、快適性が80%向上した。
伊東氏は、現場オペレーターの匠の技をAIが継承することで、モニター張り付き業務に必要な人数の省人化に成功した事例、省エネAIを線路の融雪器制御に生かすことで電気使用量の最大63%を削減したシミュレーション結果などを紹介し、ソロモンテクノロジーAIの導入効果をアピールした。
最後に伊東氏は、建て替えが困難な既存施設にとって、ソロモンテクノロジーAIと省エネ職人が電気代の高騰や2030年の中間目標達成の切り札になることを改めて強調し、講演を締め括った。
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