建物ライフサイクルマネジメントの基盤となる、NTTファシリティーズの「現況BIM」【BIM×FM第2回】:BIM×FMで本格化する建設生産プロセス変革(2)(1/2 ページ)
本連載では、FMとデジタル情報に軸足を置き、建物/施設の運営や維持管理分野でのデジタル情報の活用について、JFMAの「BIM・FM研究部会」に所属する部会員が交代で執筆していく。今回は、「NTTファシリティーズ新大橋ビル」で国内最初期の新築からFMへのBIM連携を手掛けたNTTファシリティーズの松岡辰郎氏が、建物ライフサイクルマネジメント全体で、建物情報を有効活用するための「現況BIM」を解説する。
はじめに
なぜ建物を建てて所有し、または借りたり貸したりして使うのか。ごくまれに建てることや所有すること自体が目的の場合もあるだろうが、ほとんどの場合、建物は居住や事業といったアクティビティーを遂行する手段の一つである。ライフスタイルに合った住環境となっているか、ビジネスを拡大し、成功させるために役に立つか、という視点で目的を達成するために建物がどの様な姿であるべきかを考え、実現することがファシリティマネジメント(FM)だといえるだろう。
FMというと、竣工した建物の点検/修繕といった維持管理、故障/苦情対応といったものを思い浮かべる方も多いと思うが、公益社団法人の日本ファシリティマネジメント協会(JFMA)ではFMを「企業・団体などが保有又は使用する全施設資産およびそれらの利用環境を経営戦略的視点から総合的かつ統括的に企画、管理、活用する経営活動」と定義している。建物は道具であり、資産であり、経営資源であり、作品でもある。さまざまな視点から建物のあるべき姿を考え、新築から運用、撤去までに至る長期間にその姿を保持し続ける方法を立案し、実践するのがFMのあるべき姿だ。
社会基盤としての情報通信施設
改めて書くまでもないが、現代は情報化の時代である。情報通信は、電気、ガス、水道といったライフラインや、都市、道路、物流などと同等に社会基盤を構成する重要な要素となっている。音声による電話から始まった情報通信はIP化に伴い、領域が拡大するとともに、光回線や第5世代移動通信システム(5G)による高速化や大容量化が進み、現在では大量データを蓄積や処理するデータセンターなどを含め、社会の発展に寄与する情報インフラとなっている。電話やネットワークが当たり前のように利用できるのは、情報通信事業に関わる全ての関係者の「どんなことがあっても情報通信サービスを止めない」という共通の責任感によるものであり、建築領域ではそのために情報通信施設はどうあるべきかが問われている。
全国津々浦々へ同等のサービスレベルで情報通信を提供するために、NTTグループは国内に約1万の情報通信施設を整備し、運営と維持を行っている。筆者が所属するNTTファシリティーズは、情報通信が常に適正な状態で稼働することを情報通信施設の整備、構築、維持管理、保全、統廃合に伴う撤去、転用など、FMよりも一回り広い概念としての建物ライフサイクルマネジメントの立場から支えている。
建物ライフサイクルマネジメントと建物情報
情報通信網は、いわば国土を覆う巨大なネットワークであり、情報通信装置を格納する情報通信施設はネットワークのハブのような存在となっている。そのため、情報通信施設はどれか一つが突出して高品質であっても、最適な通信網を構成することはできず、どれか一つが機能不全に陥っても情報通信は確保されない。全ての状態が均質に保たれ、経年劣化や災害による障害やセキュリティインシデントのリスクなどから情報通信装置を守らなければならない。大量の情報通信施設の維持管理は、計画的な点検や診断の実施と、それに基づく適正な改修、修繕、整備計画の策定と実行が必須となる。
一方で情報通信技術の進化の速度は非常に早い。通信装置をはじめとするICT機器の集積と大容量化は、収納ラックあたりの電力消費量の増大や発熱量と重量の増加をもたらす。その結果、情報通信施設では、通信機器の増設や更改に伴う給電設備や空調設備の増設や更改、設備収容スペースやセキュリティ区画の変更に伴う改修や模様替え工事の頻度が高くなる。
このように情報通信施設は、情報通信事業の方針に伴う通信環境の整備と経年劣化に対応する改修や修繕により、絶え間なく変化していく。建物のスペース構成と面積が変われば、その後の通信装置の敷設計画や事務スペースの利用計画、固定資産税や事業所税、清掃や維持管理コスト管理、セキュリティ区画管理、エネルギー管理といった情報通信施設の運営に影響を与えることとなる。
建物ライフサイクルマネジメントにおける保守業務と構築業務は、年度単位でサイクルを描く。ある年度(N年度)に実施する建物点検、故障苦情対応、その他の保守業務の結果と、情報通信事業の通信設備敷設計画をもとに、建物整備計画を立て、次年度にそれらをもとに設計工事を実施する。これらの流れが二重らせんのように基準となる現況BIMを相互に参照し、建物ライフサイクルマネジメントが実施されていく。
大量の情報通信施設の建物ライフサイクルマネジメントでは、情報通信の確保という視点から、建物ライフサイクル全体を最適化しなければならない。そのためには、新築や既存建物に関する企画検討から、設計・監理、運用維持管理、撤去までに至る建物情報管理の統合や共有、最適化を実現する必要がある。
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