大阪・関西万博の西工区“大屋根リング”が上棟 竹中独自の生産システムで工期2カ月前倒し:BIM
大阪・関西万博の大屋根リング西側工事で、最上部の梁が取り付けられられ、柱や梁など建物の基本構造が完成した。工事を担当した竹中工務店は、2024年問題や夢洲での建材物流問題などを受け、BIMや3Dプリンタなどの新しい生産システムを確立し、工期を2カ月前倒しすることに成功した。
竹中工務店を中心に、南海辰村建設や竹中土木で構成する共同企業体(JV)は、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)の大屋根リング建設工事(PW西工区)で、大屋根リングが2024年6月7日に上棟したと明らかにした。
大屋根リング建設工事は、全周で約2キロあり、そのうちの約700メートルを竹中工務店JVが担当。当初スケジュールでは、大屋根リングの上棟は、2024年8月上旬だったが、予定より2カ月早い上棟となった。
デジタル技術や竹中新生産システムの導入で嘔気を2カ月短縮
竹中工務店は、慢性的な建設技能者の不足や2024年4月から建設業に適用された時間外労働の上限規制(2024年問題)を踏まえ、BIM、IoTをはじめとするデジタル技術や新たな建築生産プロセスとなる「竹中新生産システム」の採用を積極的に進めている。
本工事では、昨今の関西圏での建設技能者の逼迫(ひっぱく)や夢洲特有の物流面での問題に加え、柱/梁(はり)/床/屋根を構成する20万点超にのぼる大量の木材を使用する実施設計や施工でも、解決すべき課題が多数あったという。そのため、従来の建設生産方式で設計から施工までを行った場合、膨大な時間と労務を要することが予想された。また、PW西工区は他工区に比べ、パビリオンなどの建屋の密集度が高く、早期に大屋根リング工事を完了し、搬入車両や大型重機を無くすことで作業スペースを確保するなど、工区全体工事の円滑化を図る必要があった。
そこで課題解決のために、デジタル技術や竹中新生産システムなどを駆使して工事を進めた。その結果、従来の建設生産方式と比べ、工期で2カ月程度、人員で15%程度のそれぞれ削減につながった。
具体的には、施工計画の段階で、3Dプリンタで出力した模型とGraphisoftのBIMソフトウェア「Solibri(ソリブリ)」を使い、大屋根リングの最適な建方工法を選定。次に設計から施工まで、各プロセスや各職種で使用するさまざまなBIMソフトを共通データとして連動させる「オープンBIM」方式を採用した。
大屋根リングには、木造建造物の伝統的な工法として多くの神社仏閣に見られる貫接合(垂直の柱の中央部に開口をあけ、そこに貫と呼ばれる水平の梁を通し、その貫の上部に楔を打ち込むことで固定する接合方法)を用いている。貫接合部は、現代技術でアップデートし、木のめりこみを抑え、基本構造部の剛性と強度を向上。実施設計段階では複数の部材を適材適所に配置し、接合部をBIMで忠実にモデル化した。施工図の作成段階では、曲面の描写に優れている「Rhinoceros(ライノセラス)」と、Rhinocerosアドインでプログラミング機能のある「Grasshopper(グラスホッパー)」を活用し、作図期間の大幅短縮につながった。
次に製作段階では、木部材の加工機の丸のこやドリルの動作確認のために、あらかじめ加工機にデータを入力し、デジタルツインで加工をシミュレーションして製作の精度を上げた。木材加工は、BIMデータを連動させた加工機で、部材のカットから細かな穴あけまでを完全自動化を実現した。
また、大量の木部材と取付金物の物流管理は、「Microsoft Teams」と「Excel」、「Power BI」で「見える化」し、ロジスティックセンターで多数の細かな部材を集積して、組み立てした後、ジャスト・イン・タイムで現場搬入することで、効率的な製作から、運搬、施工までの遅延のないサプライチェーンを可能にした。
今回、大屋根リング工事への新たな竹中式の新生産システムの導入で、従来は熟練大工による職人技が必要とされた木造建造物の領域でも、部材の設計から、製作、現場搬入、施工までのシームレスな工事が進められると証明されたことになる。
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