現場BIMの活用例 Vol.2 データ主導のフロントローディングがなぜ必要か【現場BIM第6回】:建設産業構造の大転換と現場BIM〜脇役たちからの挑戦状〜(6)(2/2 ページ)
PCa(プレキャストコンクリート)製造でBIMを活用することは、PCa製造工程のDXを意味し、PCa製造のプロセスやワークフローの変革を指す。その結果、業務の効率化や業務の標準化による生産性の改善、製品品質の向上が実現する。そのために、ゼネコンはフロントローディングで、BIMパラメーター情報をPCaメーカーなどの専門工事会社と連携する「データ主導型のワークフロー」を構築するべきではないだろうか。
BIMを活用したPCa製造のフロントローディング
現状のような2次元のPCa製品図からのPCa製造は、熟練の技術なくしてはあり得ないし、当然ながら時間もかかることが分かっていただけるだろう。だが、熟練の技術者数は減少の一途で、かつ技能承継も進んではいないし、働き方改革の旗印の下、効率的な作業の必要性はますます高まっている。
ここで、もし各種部材、鉄筋、コンクリートの数量を簡単に拾え、図面間の連携や干渉チェックを容易にすることができたらどうだろうか。その解答の一つが、「PCa製造工程のBIM化」だ。最終的には、(人がPCaを実際に製造する場面では)2次元ベースで製品図を作成する必要はあるにせよ、その作成プロセスをいったんRevitなどのBIMモデリングソフトウェアにすれば、上記の問題点の大部分は解決するのではないかというわけだ。
PCa製品をRevitなどのBIMモデリングソフトウェアでモデリングをし、そのモデルより製品図をアウトプットできるようにする。すなわち、ワンフロア全ての柱や梁の躯体形状と配筋、さらには埋込金物(インサート類)、設備貫通孔補強鉄筋、鉄筋継手(カプラー)、定着プレートなども全てモデル化してしまう。
その結果、各種数量が瞬時に出力される。また、鉄筋加工形状や鉄筋重量なども出力できる。そのため、発注業務も効率化する。前述したように、従来のやり方は2次元製品図を作成した時点で、熟練工が製品図を見ながら、それぞれ必要な数量を算出して発注しているのだが、ご想像の通り大変難しい業務で、時間もかかる。一方、Revitで製品をモデリングしてあれば、こうした積算業務をソフトウェア側に任せられる。すなわち製品図アウトプットと同時に、数量の把握が可能になり、数量を既存の積算システム(ほぼExcelで拾っている)との連携も実現する。
主筋位置の調整についても、3次元で確認すれば、どこで主筋が通らなくなるのかなども一目で視覚的に分かる。主筋位置調整後の干渉についても、ソフトウェアに任せれば問題点を共有し、解決までのプロセスも効率化される。なぜなら、ソフトウェア上で全ての図面が連携しているので、ある部分の修正が瞬時に全ての図面に反映されるからだ。確かに、RevitでのPCa製品モデリングや製品図アウトプットにも、相当程度のRevit知見は前提となるが、熟練工でなくともソフトウェアの力を借りれば、検討、修正、数量拾いが可能にはなる。
現状、PCaメーカーはゼネコン側から設計図書(図面)をもらっている(=図面主導型)。何百ページにも及ぶ図面を見て、必要な情報を探し、手作業で図面化を行っている。こうした一連のフローが、BIMデータで連携されたらどうだろうか。後編では、M&Fグループ協力のもと、PCa製造工程でのBIM化に取り組んでいる企業の事例を紹介しながら、「データ主導の連携」というフロントローディングの一つの在り方を考察してみたい。
著者Profile
山崎 芳治/Yoshiharu Yamasaki
野原グループCDO(Chief Digitalization Officer/最高デジタル責任者)。20年超に及ぶ製造業その他の業界でのデジタル技術活用と事業転換の知見を生かし、現職では社内業務プロセスの抜本的改革、建設プロセス全体の生産性向上を目指すBIMサービス「BuildApp(ビルドアップ:BIM設計―製造―施工支援プラットフォーム)」を中心とした建設DX推進事業を統括する。
コーポレートミッション「建設業界のアップデート」の実現に向け、業界関係者をつなぐハブ機能を担いサプライチェーン変革に挑む。
著者Profile
守屋 正規/Masanori Moriya
「建設デジタル、マジで、やる。」を掲げるM&F tecnica代表取締役。建築総合アウトソーシング事業(設計図、施工図、仮設図、人材派遣、各種申請など)を展開し、RevitによるBIMプレジェクトは280件を超える。2023年6月には、ISO 19650に基づく「BIM BSI Kitemark」認証を取得した。
中堅ゼネコンで主に都内で現場監督を務めた経験から、施工図製作に精通し(22年超、現在も継続中)、BIM関連講師として数々の施工BIMセミナーにも登壇(大塚商会×Autodesk主催など)。また、北海道大学大学院ではBIM教育にも携わる。
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