落合陽一氏の万博パビリオンを手掛けた「NOIZ」が語る「フィジカルとデジタルの境界に浮かぶ未来の建築設計」:建築設計×コンピュテーショナルの現在地(3/3 ページ)
大阪・関西万博で、テーマ事業プロデューサーの落合陽一氏が企画するパビリオン「null2」の設計を手掛ける「NOIZ」は、建築のフィジカル要素とコンピュテーショナルデザインなどのデジタル技術との融合で、新しい建築設計の可能性を模索している。null2で具現化を目指す、未来の建築デザインをNOIZの設計担当者に聞いた。
フィジカルとデジタルで、設計ゲンバの働き方もアップデート
フィジカルとデジタルの融合で、新しいデザインの可能性を追求するNOIZ。その揺るぎない理念は、日々の設計スタイルにも貫かれている。
2019年末に世界的に広がった新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、リモートワークは日常の風景となった。その後の5類感染症に移行してからは、オフィス回帰を選択した企業も多い。それでもNOIZでは、社員の半分がリモートで業務をこなし、午前中は自宅で作業して午後から出社のワークスタイルがスタンダードになりつつある。
笹村氏自身も、子育ての関係で愛媛県に居住しながら、null2の設計もリモート環境で進めている。リモートワークについて笹村氏は、NOIZにフィジカルとデジタルの融合との設計理念に基づき、リモート業務に対応する現実と仮想の言うなればデジタルツインの作業環境が整っているからこそ、実現できていると強調する。
リモートの設計環境では、特にNOIZが採用したリモートデスクトップアプリ「Splashtop(スプラッシュトップ)」の貢献が大きい。Splashtopでは、どこにいても東京オフィスのハイスペックなCPUやGPUを利用しながら、設計が行えるため、遠隔なことが制約にはならなくなる。
酒井氏も、「事務所外の打ち合わせで、3Dモデルを動かしながらプレゼンするケースが多々ある。しかし、データ容量が大きくなりすぎると、一般的なノートPCでは操作性が悪くなってしまう。Splashtopは、事務所のハイスペックなワークステーションに遠隔でアクセスし、手元のノートPCで確認できるので、ストレスから解放される」と導入効果を認める。
特に、コンピュテーショナルデザインを多用するNOIZでは、マテリアル全体の見え方などを必ず3Dで検証するため、以前は要望があるとその都度、持ち帰って修正していた。Splashtopを活用すれば、その場で事務所のPCに接続し、すぐに設計案を直せるので施主や工事関係者との合意形成が迅速化される利点もある。
リモートワークには、笹村氏は副次的メリットもあるとし、「地方で面白い活動をしている人がいても、東京に居てはなかなか出会えない。地方には東京では知り得ない、その土地固有のコンペ情報などもあるので、地元工務店と協業を検討するなど、地域とのコミュニケーションの場も増やしていきたい」と、新しい価値創出の機会にも成り得るとした。
酒井氏は、「東京の恵比寿でしかできないという状況よりは、スタッフが各地に分散している状況の方が、新しいアイデアが想起されるチャンスは増える。リモートの設計環境があるため、物理的な距離の制約は少なくなった。国外であっても、時差以外は問題にならない」と補足する。
これまでの常識の枠を超え、活動領域を広げるNOIZは、建築設計事務所として今後どこに向かおうとしているのか。最後に酒井氏に尋ねた。「NOIZという社名が示す通り、ノイズを受け入れられるように、明確にスタイルを定めることはあえてしない。創業者の豊田がよく言うように“雑食系”として、これからもあらゆる領域でフィジカルとデジタルの融合に挑戦していきたい」。
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