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インタビュー

落合陽一氏の万博パビリオンを手掛けた「NOIZ」が語る「フィジカルとデジタルの境界に浮かぶ未来の建築設計」建築設計×コンピュテーショナルの現在地(2/3 ページ)

大阪・関西万博で、テーマ事業プロデューサーの落合陽一氏が企画するパビリオン「null2」の設計を手掛ける「NOIZ」は、建築のフィジカル要素とコンピュテーショナルデザインなどのデジタル技術との融合で、新しい建築設計の可能性を模索している。null2で具現化を目指す、未来の建築デザインをNOIZの設計担当者に聞いた。

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生き物のような生命感のあるファサードを成すヴォクセル、万博後にはリユースも

 鏡面で仕上げられたヴォクセルの表面にも、落合氏が依頼した「動的な建築」を象徴する意匠が施されている。

 ヴォクセルの外側は、鏡面仕上げ材で覆われている。通常、鏡面はステンレスなど硬い素材で作るため、見た人はヴォクセルを静的な物質だと想像するだろう。しかし、ヴォクセルの表面を覆っているのは、実はオリジナルで開発した柔らかい素材だ。それだけでなくプログラムを組み、柔らかい鏡面を動かす機能も備えている。「万博のテーマは“いのち”。鏡面を流動体のように動かすことで、あたかも建物が“呼吸している”生命のようなデザインとした」(笹村氏)。

ヴォクセルの外側を覆う鏡面仕上げ材のプロトタイプを手に説明する笹村氏
ヴォクセルの外側を覆う鏡面仕上げ材のプロトタイプを手に説明する笹村氏

 こうしたデザインを採用した背景には、現地を訪れる来場者の体験を大切にしたいとの思いがある。酒井氏は「硬質なものが柔らかく動くのは、ある種の裏切りでもあり、見た人に驚きを与えるものになるはず」と、その意図を口にする。

 来場者だけが体験できることは、建物の素材や動きによる驚きだけではない。鏡面に反射する光もまた、見る者にリアル世界ならではの体験をもたらす。

呼吸している生命を想起させるnull2の壁面
呼吸している生命を想起させるnull2の壁面 Copyright:2023 Yoichi Ochiai / 設計:NOIZ / Sustainable Pavilion 2025 Inc. All Rights Reserved.

 NOIZは、壁面の動きや鏡面反射などの検討を、BlenderやUnreal Engineなどの3DCGツールでシミュレーションを行いながら、その動的な視覚効果などの検証をした。

 ただ、デジタル空間で鏡面反射を再現しようとすると、反射数が多くなればなるほどデータが重くなり、ソフトウェア自体も動かず、レンダリングに支障を来す。そのため、どこかで反射はここまでと区切りをつけなければならない。「リアルでは無限にパターンがある鏡面反射を、ヴァーチャル空間では忠実に再現しきれない。今回の万博はヴァーチャル開催でいいのでは?との意見もあるが、フィジカルなものを作って体験してもらうことにこそ意義がある」(酒井氏)。

 ヴォクセルによる設計自由度の高さは、万博後の活用も見据えている。笹村氏は、「null2は、あくまでも万博会場に合わせたサイズ。ヴォクセル自体は、閉幕後に1個1個にバラし、希望者に提供してアップサイクルしてもらうことにも応じられるポテンシャルを秘めている。もともと落合氏からも、万博後にはパビリオンを移設したい意向を伝えられており、別の場所で別の形に組み替え、建て直すことは設計当初から視野に入れていた」と構想を話す。

 ヴォクセルの自由度は、場所や形状の制限に左右されず、建築物そのものの構成要素まで還元して再利用できる素材としての可能性がある。ただ、現段階では万博後のリユースにはクリアしなければならない課題も存在する。酒井氏によれば、「null2は仮設の建築物だからこそのデザイン。ヴォクセルの表面を覆う材料は可燃性のため、通常は外装材として認められない。笹村があえてポテンシャルと言ったのも、そうした理由からだ。多くの来場者にnull2を体験してもらい、リユースの方法や用途を共に考えたり、再利用を支援するきっかけが生まれれば」と期待を込める。

ヴォクセルの実物大モックアップ。膜面が動いた際にどのような変化が生じるのかを実験した際の画像 提供:NOIZ

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