明大 生田新校舎で挑戦した日建設計の設計BIM 基本計画から実施設計まで「BIMで考える、BIMと考える」:Building Together Japan 2023(4/4 ページ)
日建設計の茂住勇至氏は、明治大学 生田キャンパスの新校舎設計で、プロポーザル段階から、基本設計、実施設計に至るまで、BIMソフトウェア「Archicad」を活用した。設計業務では、基本計画の大学側との合意形成や日影シミュレーション、100分の1の詳細度でBIM作成などの新たな設計BIMの試みに挑んだという。
実施設計で求積図や仕上表、建具表、100分の1の詳細図を作成
実施設計では、案内図や平均地盤面算定図、全体配置図、面積求積図、仕上表、平面/立面/断面図、天井伏図、床構成範囲、断熱範囲図、防水範囲図、建具表、部分詳細図(一部)、防火防炎区画図に、BIMを活用することをチーム内で決めた。面積求積図、仕上表、建具表(詳細図は2D)、100分の1程度の詳細度(LOD)での部分詳細図の作成は、茂住氏もこれまで試したことがないチャレンジとなった。
一般図(平面図、天井伏図、断面図、立面図)に建具や壁種のラベルも入れ込んでいる。断面図や立面図は、断面に出てくる梁や躯体形状がかなり複雑なため、作り込みに特に苦労したという。
仕上げ表関係では、ゾーンプロパティから表の体裁を作り込むのに手間取り、茂住氏は「仕上表とBIMの操作はリンクしているので、ゾーンのプロパティ取り扱いにはメンバー間の理解と注意が必要だ」と話す。
建具表は、一応完成させることはできたものの、姿図の表現やドアとカーテンウォールを一緒に拾えないといった点は今後の課題として残った。
詳細図は100分の1まではBIMから描き出したものを使用。部分詳細図に関しては2Dで作図し、PDFデータに描き出して、Archicadのレイアウト空間にリンクで貼り、発注図をまとめた。
バリエーションの多い教室は、100分の1スケールまではBIMで展開図を作成。ただ、細かい描き込みには、労力とコストがかなり必要となった。
案内図や平均地盤面算定、求積図は、Archicadのアドオンで対応。区画図は、BIMの壁や建具とあまりにもひも付けすぎるとリスクが高いと考え、基本はポリラインとハッチングの境界のみにとどめた。
茂住氏が実施設計でBIM活用が特に役立ったと感じたのは、竪穴区画の検討だった。「各階でずれて上がっていく竪穴区画のシャッターボックスを全て躯体の折り上げで作る計画を立てた。BIMを活用することで、詳細の検討を早い段階で解けた」(茂住氏)。
また、確認申請関係の検討では、有窓判定やキャンパス内の複合日影をBIM内の日影計算や天空率計算を行うアドオン「ADS-BT」で、3Dモデルで確認ができたことにBIM活用のメリットを感じたと茂住氏は言う。
BIMで建築の奥深さを学ぶ
茂住氏は、これまでのプロジェクトを振り返って、BIM活用を次のように評価した。「プロポーザルから基本設計までは、会社内外での空間共有やアウトプットといったコミュニケーションツールとして役立った。他にも高さや面積、席数をリアルタイムに把握できる点にもメリットを実感した」。
実施設計に入ってからは、BIMで作成したものに関して、表に集計した数値と図面との整合が取れる利便性があったが、実施図レベルの描き込みには、相応の根気とコストが必要との認識を示した。
これまでの現場でのBIMデータの受け止められ方は、講演当時は現場が始まったばかりで基礎工事中で、現場には“参考レベル”としてBIMデータを渡したと前置きしたうえで、「想定している空間を関係者間で共有し、施工方法も踏まえて、関係者全員で共に考えることが現場段階でも実現している」との印象を持っていると感想を口にした。
最後に茂住氏は、BIMには工事関係者と一緒に空間を考えること以外にも、「実務に関わるようになり、設計の解像度が上がるにつれ、学生時代には分からなかったArchicadの機能が理解できるようになった。断面形状ツールは、1個の断面を描くことで設計の多くを語れる意味で設計の本質を突くツールだと分かり、プロパティマネジャーや一覧表に触れることで建物を作ることは、多くの情報が複雑に絡み合っていることを学べた」と気付きを述べ、今回の講演を結んだ。
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