建築家・村井一氏が提唱する「設計・施工で“作る”だけでなく、“使う”“残す”ためのBIMと建築情報」:Archi Future 2023(3/3 ページ)
昨今のBIM研究では、完成した建物の管理運用やその先にある技術承継などの新しい活用が模索されている。建築家の村井一氏は、従来の設計・施工といった「作る」ことを目的としたBIMだけでなく、管理運用の「使う」、さらに建築情報を保存/継承する「残す」領域で、BIMがどのように有効かの新たな可能性を探っている。
管理運用段階の「使う」BIMで重要となる「状態情報」
使うに関しては、BIMをデジタル台帳とすることで、新たな価値が生まれる。BIMで管理している設計情報に点群データを重ねると、設計後の現状での什器や備品の状態管理にも使える。温度や湿度など各種IoTセンサーの情報も加えれば、時間軸上で室内環境の状態や推移も把握可能になる。
時間軸上で変化する温度や湿度といった各種のセンシングデータや監視カメラが取得した映像などは「状態情報」と呼ばれ、建物の管理運用上で重要な情報となる。村井氏は管理運用のBIM活用で、時間軸が異なる情報をどのようにBIMデータにアタッチしていくかの研究を進めている。
村井氏は、「作るためのBIMはデータをツリー構造で階層化して構築していくが、状態情報との連携では、位置情報とBIMの属性情報とをひも付けるネットワーク型の構造が必要となる」とした。
「作る」「使う」から「残す」へ デジタル化で技術や知識の承継へ
村井氏の提唱するBIMが他のBIMと大きく異なるのが、“残す”領域に踏み込んでいる点だ。
村井氏自身は、2022年に現存しない歴史的建築物のデジタル復元に取り組んでいる。復元の資料となるのは、手書きの図面や写真などだが、図面は設計図なのか竣工図なのか不明瞭だったり、図面同士で書き込み寸法が違ったり、整合していないことが多々あった。そのため、知見を有する人や当時を知る人にヒアリングして対応した。そうした歴史的な建物の考証を進める中で、「技術や知識を残したり伝えたりするために大切なポイントに気付いた」と振り返る。
現存する歴史的建造物でも、BIMでモデリングしていくと、その途中で、構造などでどうなっているかが分からない箇所が出てくるという。こうした部分をBIMでどう扱うかが、作ると使うに続く、BIMの「ちょっと面白いパートになる」。
村井氏は、建築の技術を残すことに関して、仮想空間上に3Dモデルを手軽に作って教える手法を紹介した。村井氏が大学の授業で使っており、教育の手法としても効果がある。建材や設備の機能を記述する方法では、輻射空調のシステムをネットワーク図に変換する研究で解説した。
輻射空調のような設備は、模式図や設備図面で表記するが、現状ではデジタル化されていない。不具合が起きた場合に原因を探るには、複数の図面を照らし合わせ、内容を複合して特定する。仮にデジタル化されて、機能記述の形で収められていれば、不具合が発生しても因果がありそうな場所をたどれるようになる。さらに、フロントローディングで、設備システム自体をあらかじめどのように設計すべきかを検討するヒントにもなる。
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