地方都市「広島」でもBIM設計をスタンダードに!広工大と大旗連合建築設計にみるBIM人材育成と実践例:Archi Future 2022(1/4 ページ)
地方の建設業でも、BIMを本格活用するためには何をすべきか。その1つの答えとして、広島工業大学の即戦力を育てるデジタルデザイン教育と、地方の組織系建築設計事務所での実践例を紹介する。
建築分野でのICT活用を中心とした注目の動向と最新のソリューションを紹介する「Archi Future 2022」が2022年10月、東京都江東区有明のTFTホールで開催された。2019年末に端を発するコロナ禍により、2020年以降はオンラインのみの動画公開だったArchi Future。3年振りにリアル(オンサイト)で、展示会、講演会、セミナー、フォーラムが繰り広げられた。
本稿では、コンピュテーションの力を活用し、建築の領域を広げ、“建築の力”を高めていく多様なセミナーの中から、「地方の大学と組織設計事務所におけるBIMの教育と実務―即戦力を育てる広工大のデジタルデザイン教育と大旗連合建築設計のBIMの取り組み―」についてレポートする。
登壇者は、建築家で広島工業大学 環境学部 建築デザイン学科 准教授 杉田宗氏と、広島市中区に拠点を置く組織系設計事務所の大旗連合建築設計 設計部課長 高橋智彦氏。大学と設計事務所、それぞれのフィールドでの取り組みと、今後の広島でのBIM普及に必要な取り組みを解説した。
計画的なデジタルデザインのスキルを習得し、実践力を養う
杉田氏は2017年に、広工大の自身の研究室が中心となって、学内外の研究室や企業と提携してさまざまな研究や活動を行うためのプラットフォーム「Hiroshima Design Lab(HDL)」を設立。その活動の1つ「ヒロシマBIMゼミ」は、広島でのBIMの活用と普及やBIMを生かした横断的なコラボレーションの誘発、BIMをはじめとする建築の新たな情報技術の意見交換の場として、2カ月に1度のペースで開催している。
講演冒頭で杉田氏は、HDLでの活動を通した実感として、「東京と比べ、広島でのBIMや設計のデジタル化の進捗は芳(かんば)しくしくない」との認識を示した。そのうえで、「現状を変えていくことが自らのミッション」と力強く意思表明し、広工大でのデジタルデザイン系講義の成果を報告した。
杉田氏の講義は、2年生までにデジタルデザインの基礎スキルを徹底的に教えることに特徴がある。3年生のゼミ配属前に「コンピュテーショナルデザイン」「デジタルファブリケーション実習」「BIM実習」の全てを学ぶことで、3年生から始まるより専門的な研究にスムーズに移行し、デジタルデザインの技術をさらに伸ばせる環境を整えている。
コンピュテーショナルデザインとは、簡単にいえば、具体的な設計前にコンピュータに条件や環境情報を入力し、シミュレーションしながら最善のデザインを探る手法のこと。建築学科の1年生は、ほぼ全員が履修するという。
杉田氏が教えるソフトは、3Dモデリングソフト「Rhinoceros」と、そのプラグインのビジュアルプログラミング「Grasshopper」。両ソフトを組み合わせてベンチのモデリング、ドアノブやキャンパス内の渡り廊下のデザインなどの課題を学生に与えている。
従来は、教室ではソフトの操作を教えることをメインとしていた。しかし、コロナ禍でオンライン講義が常態化したのをきっかけに、講義前に映像でソフトの基本操作を自主学習した後、講義時間には集中して課題に向き合う、「自宅で予習し、授業で学習する」、いわゆる“反転授業”に切り替えた。その結果、「必要に応じて講義前に操作動画を繰り返し視聴するなど、個々の学生のレベルに合わせた学習が可能になり、技術習得が効率的に進んだ」(杉田氏)。
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