AIと車両搭載IoTセンサーで、交通インフラの問題を解消する最新研究【土木×AI第21回】:“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(21)(2/2 ページ)
連載第21回は、交通インフラの事故防止や維持管理の諸問題を解決する目的で、車両搭載のIoTセンサーで取得したデータをAI解析する最新研究を紹介します。
山間部の狭隘道路をセマンティックセグメンテーションで状態把握
文献4では、「枯損木」の検出に車載画像とAIを適用しています。道路周辺の枯損木は、倒壊すると道路の通行を支障する可能性があります。セマンティックセグメンテーションによって樹木の領域を分類した上で、変色して緑色ではない部分を抽出し、枯損木を検出しています※4。
山間部には、幅員が4メートルに満たない狭隘(きょうあい)道路が多く存在しますが、その状態を頻繁に計測することは容易ではありません。非常時には緊急車両が通行する必要があるため、通行可能な幅員を事前に正確に把握することができれば、迅速な救助や災害復旧活動につながるでしょう。そこで、下図のように車載カメラの画像にセマンティックセグメンテーションを用いて道路の領域を検出し、画像解析によって幅員を推定する方法が提案されています※5。
文献6では、路面のひびわれ評価に、扱いの容易なアクションカメラから得られた画像を利用しています※6。下図のように「路面」「路面外」「マンホール」「ジョイント」の4カテゴリーにセマンティックセグメンテーションをした上で、路面として抽出された領域に対して画像分類のAIを適用し、ひび割れの程度や補修跡を8カテゴリーに分類しています。
文献7では、ドライブレコーダーから得られた画像にAIを適用して、道路上の落石を検出しています※7。岩盤崩落の発生から数日〜数カ月前に、前兆現象と考えられる小崩落の発生が報告されているため、崩落の兆候と考えられる落石をAIで検出してカウントし、その傾向から落石が進捗している道路区間の特定を試みています。その結果、適切な予防対策を行うことで、道路の安全性を高められます。
将来、多数の車両でAI解析用の画像が取得されるようになり、それらが全てクラウドに送信されると、膨大なデータ送信量になるばかりでなく、画像解析の負荷も集中してしまいます。そこで、センサーの側である程度のデータ解析を行い、冗長なデータを除外することで、データの転送量を削減する仕組み「エッジコンピューティング」が注目されています。文献8では、エッジコンピューティングを路面の乾燥や湿潤、積雪の状態分類に適用する検討を行っています。
車両を活用した情報の取得のユースケースは広がっており、センサーやクラウドコンピューティング/エッジコンピューティングなどの構成も多様化しています。用途に応じた最適な構成を選定してAIを取り入れることで効率的にデータを取得し、さらに前回連載で紹介したデジタルツインと連携することで、インフラや防災などのデジタルトランスフォーメーションやスマートモビリティの実現につながる有望なアプローチとなることが期待されます。
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