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AIと車両搭載IoTセンサーで、交通インフラの問題を解消する最新研究【土木×AI第21回】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(21)(2/2 ページ)

連載第21回は、交通インフラの事故防止や維持管理の諸問題を解決する目的で、車両搭載のIoTセンサーで取得したデータをAI解析する最新研究を紹介します。

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山間部の狭隘道路をセマンティックセグメンテーションで状態把握

 文献4では、「枯損木」の検出に車載画像とAIを適用しています。道路周辺の枯損木は、倒壊すると道路の通行を支障する可能性があります。セマンティックセグメンテーションによって樹木の領域を分類した上で、変色して緑色ではない部分を抽出し、枯損木を検出しています※4

※4 「セマンティックセグメンテーションに基づく道路走行中の車載映像を用いた枯損木の検出」小川直輝,前田圭介,小川貴弘,長谷山美紀/AI・データサイエンス論文集4巻3号p686-693/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

 山間部には、幅員が4メートルに満たない狭隘(きょうあい)道路が多く存在しますが、その状態を頻繁に計測することは容易ではありません。非常時には緊急車両が通行する必要があるため、通行可能な幅員を事前に正確に把握することができれば、迅速な救助や災害復旧活動につながるでしょう。そこで、下図のように車載カメラの画像にセマンティックセグメンテーションを用いて道路の領域を検出し、画像解析によって幅員を推定する方法が提案されています※5

セマンティックセグメンテーションによる狭隘道路の検出
セマンティックセグメンテーションによる狭隘道路の検出 出典:※5

※5 「山間部道路情報の高頻度更新・詳細化を目的とした狭隘道路における道幅自動計測の検討」近藤大騎,外岡凌,鈴木愛未,橋本岳,橋本智洋,山本茂広/AI・データサイエンス論文集3巻J2号p563-571/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2022年

 文献6では、路面のひびわれ評価に、扱いの容易なアクションカメラから得られた画像を利用しています※6。下図のように「路面」「路面外」「マンホール」「ジョイント」の4カテゴリーにセマンティックセグメンテーションをした上で、路面として抽出された領域に対して画像分類のAIを適用し、ひび割れの程度や補修跡を8カテゴリーに分類しています。

セマンティックセグメンテーションによる路面やジョイントの検出
セマンティックセグメンテーションによる路面やジョイントの検出 出典:※6

※6 「アクションカメラを用いた一般道路路面の画像計測とひび割れに関する健全度評価」吉田純司,竹谷晃一/AI・データサイエンス論文集4巻3号p1005-1012/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

 文献7では、ドライブレコーダーから得られた画像にAIを適用して、道路上の落石を検出しています※7。岩盤崩落の発生から数日〜数カ月前に、前兆現象と考えられる小崩落の発生が報告されているため、崩落の兆候と考えられる落石をAIで検出してカウントし、その傾向から落石が進捗している道路区間の特定を試みています。その結果、適切な予防対策を行うことで、道路の安全性を高められます。

落石の検出例
落石の検出例 出典:※7

※7 「ドライブレコーダーとAIを用いた落石進捗区間の特定の試み」松村真一郎,峯啓一郎,佐藤由子/AI・データサイエンス論文集2巻J2号p917-925/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2021年

 将来、多数の車両でAI解析用の画像が取得されるようになり、それらが全てクラウドに送信されると、膨大なデータ送信量になるばかりでなく、画像解析の負荷も集中してしまいます。そこで、センサーの側である程度のデータ解析を行い、冗長なデータを除外することで、データの転送量を削減する仕組み「エッジコンピューティング」が注目されています。文献8では、エッジコンピューティングを路面の乾燥や湿潤、積雪の状態分類に適用する検討を行っています。

乾燥・湿潤・積雪の分類例
乾燥・湿潤・積雪の分類例 出典:※8

※8 「道路空間を観測するエッジAIの類似度を用いた再学習のためのエッジ選択手法」植西康太,八木雅大,高橋翔,萩原亨/AI・データサイエンス論文集4巻3号p619-628/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

 車両を活用した情報の取得のユースケースは広がっており、センサーやクラウドコンピューティング/エッジコンピューティングなどの構成も多様化しています。用途に応じた最適な構成を選定してAIを取り入れることで効率的にデータを取得し、さらに前回連載で紹介したデジタルツインと連携することで、インフラや防災などのデジタルトランスフォーメーションやスマートモビリティの実現につながる有望なアプローチとなることが期待されます。

著者Profile

阿部 雅人/Masato Abe

ベイシスコンサルティング 研究開発室 チーフリサーチャー。防災科学技術研究所 客員研究員。土木学会 構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会 副委員長を務めた後、現在はAI・データサイエンス実践研究小委員会 副委員長。インフラメンテナンス国民会議 実行委員も兼任。

近著に、「構造物のモニタリング技術」(日本鋼構造協会編/コロナ社)がある。

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