日建設計が構想する“レジリエント・シティー” IoTとVRで巨大地震の減災へ【設計者インタビュー】:関東大震災から100年に考えるBCP対策(4/4 ページ)
関東大震災から100年の節目を迎えた今、南海トラフや首都直下など発生が近づいていると予測されている。そうした防災/減災が求められる社会変化に従い、日建設計は設計提案でBCP対策のプラスαとなる2つの防災ソリューションを展開している。双方の開発責任者に、開発意図や活用事例について聞いた。
建物から街へ、進化するヴァーチャル避難訓練
日建設計は2023年8月末、渋谷区主催の参加型防災イベント「TOKYOもしもFES渋谷2023」のプレイベントに出展。日建設計は長年、渋谷周辺の開発に携わっており、東日本大震災の際に避難者で溢(あふ)れる渋谷の姿を目の当たりにした設計者が、何とかしなければいけないとの危機感を抱き続けていたことが、イベント参加の理由となった。
プレイベントでは、ヴァーチャル避難訓練を発展させた広範囲の体験イベントを開催した。「LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)に向かう途中で大地震が起きた場合、どのように避難すればよいか」をテーマにした訓練で、対象は区役所職員。染谷氏は、訓練の目的を「避難時間を競うものではなく、避難先までの移動経験を記憶に残すことで、災害時に区役所職員が“避難経路の伝道師”になれるように」と説明した。
経路は、北谷公園付近から代々木公園までの約1キロで、渋谷区が策定した「避難誘導計画」を参考に決定した。最短経路は途中にLINE CUBE SHIBUYAがあり、災害時には施設から退去した避難者で混雑することが予想されるため、迂回しながら目的地を目指す設定となっている。避難経路上には、「シブヤ・アロープロジェクト」が設置した災害時に来街者を一時退避場所まで誘導するためのアートな「矢印(誘導サイン)」があり、目印にしながら、代々木公園まで導く内容となっている。人が集まりやすい渋谷駅方面に向かおうとしたり、狭い歩道橋を利用しようとしたりすると、アラートを出して注意を促す。
3日間でおおよそ60人が体験し、染谷氏は「参加者からは、避難経路や矢印の意図を理解できたとの声も聞かれた。彼らは、今回経験して学んだことを、別の機会で困っている方に伝えてくれると思う。そうしたことの積み重ねが、共助につながる」との手応えを口にした。
日建設計は今後、建物内部を再現したヴァーチャル避難訓練のパッケージをビル管理者向けに、渋谷区のイベントで活用した街区をカバーする発展形のサービスを自治体向けに、それぞれ提案していく。
なお、共同開発のジオクリエイツは2023年8月25日、ヴァーチャル避難訓練を発展させた「ヴァーチャル消防訓練」が、福岡市の実証実験フルサポート事業に採択されたと発表した。実証実験は、2023年10〜11月に行う予定だ。
1923年に発生した関東大震災から100年の節目を迎えた2023年は、発生日の9月1日「防災の日」を中心に、全国各地で防災/減災のイベントや大規模な避難訓練などが開催された。関東大震災の教訓から、あらかじめ地震に備える意識は一般家庭でも浸透してきている。
建築分野でも、設計の初期段階でDEMやAEMといった地震環境シミュレーションに加え、最近では国土交通省の3D都市モデル整備事業「Project PLATEAU(プロジェクト プラトー)」のオープンデータを用い、火災や津波の避難計画検討なども取り組まれてはいる。ただ、こうした最新テクロジーは、高度な専門知識が必要だったり、設計に掛ける人的リソースやコストも必要となり、施主や管理者、利用者などのスタークホルダー全体の理解が得難い。
その点、今回紹介した日建設計のIoTやVRのBCP対策は、誰にでもわかり分かりすく、導入の障壁も低いというメリットがある。南海トラフや首都直下などの巨大地震がいつ起きてもおかしくないと巷間ささやかれる今だからこそ、日建設計の建築設計にIoTやVRで付加価値を付ける形で減災を提案するアプローチが、建築物の高度化、さらには都市のレジリエンスにも貢献していくことを期待したい。 (インタビュー+構成:石原忍)
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