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インタビュー

日建設計が構想する“レジリエント・シティー” IoTとVRで巨大地震の減災へ【設計者インタビュー】関東大震災から100年に考えるBCP対策(3/4 ページ)

関東大震災から100年の節目を迎えた今、南海トラフや首都直下など発生が近づいていると予測されている。そうした防災/減災が求められる社会変化に従い、日建設計は設計提案でBCP対策のプラスαとなる2つの防災ソリューションを展開している。双方の開発責任者に、開発意図や活用事例について聞いた。

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「ヴァーチャル避難訓練」で次につながる経験を手に入れる

 もう1つの防災ソリューションは、建設向けVRコンテンツを制作しているジオクリエイツと共同開発した「ヴァーチャル避難訓練」だ。ジオクリエイツは、視線と脳波を主に利用した空間分析を得意とする建築VRのスタートアップ。日建設計とは、2018年に仮想地震心理評価システム「地震体験VR(SYNCVR)」を共同開発した実績がある。

日建設計 設計監理部門 デジタルデザイングループ ダイレクター 染谷朝幸氏
日建設計 設計監理部門 デジタルデザイングループ ダイレクター 染谷朝幸氏 撮影:石原忍 

 日建設計 設計監理部門 デジタルデザイングループ ダイレクター 染谷朝幸氏は、コロナ禍での経験がシステム開発のきっかけだったと振り返る。

 「東京都は、収容人員が50人以上の事務所に、避難訓練の実施を義務付けている。当社も対象事務所だが、コロナ禍で出社できない人が多く、避難訓練を容易に実施できる状況ではなかった。しかし、人々の安心・安全を守る建物の設計に携わる企業として、何かすべきとの思いがあり、社員が出社できない状況で実施し、皆が出社できる環境に戻った時にその経験が生かせるソリューションを構築しようと決意した」(染谷氏)。たどり着いたのが、PCやスマートフォン、タブレット端末で実施するVRを活用した避難訓練だった。

 日建設計が開発したヴァーチャル避難訓練とは、事前に360度カメラで撮影した画像をつなぎ合わせたVR空間の中で、画面に表示される矢印をタップしながら進み(ウォークスルー)、ルートに沿って避難場所を目指す。

 ただ矢印を押すだけのシステムではなく、染谷氏によれば「同じ空間上で、複数人が同時に避難訓練を仮想体験できるのが特徴。参加者はアバターとして画面に映し出されるため、同じ場に別の参加者がいる臨場感や緊張感も感じられる」とのこと。混雑した場所では、矢印を押しても前に進みづらくなるなど、リアルな場面で起こりうるアクシデントも再現されている。

 仮想空間の体験のため、さまざまな場面を想定した避難訓練をシナリオとして設定できる。「夜間の建物内部を撮影した画像を使えば、“夜間や停電時に火災が起こった”など、リアルの訓練では難しい設定での避難訓練も実現する」(染谷氏)。

ヴァーチャル避難訓練はこれまで、建物からの避難を中心に多くの人がWebで参加。オフィス事例(上)、商業施設火災煙降下事例(下)
ヴァーチャル避難訓練はこれまで、建物からの避難を中心に多くの人がWebで参加。オフィス事例(上)、商業施設火災煙降下事例(下) 提供:日建設計

 さらに、訓練参加者がたどった避難経路はもちろん、画面の動きから避難中に訓練参加者が何を見たかを、データで記録するため、今後の避難誘導のサインや動線の計画に役立てられる。

 ヴァーチャル避難訓練の提供開始は2021年。日建設計の東京オフィスと北海道オフィス、東京本店も含む東京・飯田橋の街区「アイガーデンエア」での避難訓練でも活用されている。

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