インフラ維持管理で応用が見込める、AIの「決定木」や「アンサンブル学習」【土木×AI第17回】:“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(17)(2/2 ページ)
連載第17回は、データ分析によく使われ、将来を予測する回帰や分類で活用が見込める優れた「決定木」や「アンサンブル学習」といったAI技術のインフラ分野での応用について解説します。
土砂災害発生のリスクなどAIの説明性を高める「XAI」
AIは“ブラックボックス”とよく言われます。決定木自体は解釈しやすいのですが、木がたくさん集まって、森のようになっているランダムフォレストは必ずしも解釈しやすいものではありません。そのため、AIの説明性を高める「説明可能AI(Explainable AI:XAI)」に関する研究が進められています。
推定結果に対して各説明変数がどのように寄与しているのかを、XAIの一手法であるSHAP値で示したのが下図になります。
なお、土砂崩壊発生の有無のように推定したい値を「目的変数」、推定するためのベースとなる値を「説明変数」(この場合は、標高/傾斜角/土壌雨量指数/時間雨量)と呼びます。
横軸は右側にいくほど正の相関(一方が増加すれば他方も増加する傾向)が大きく、左側にいくほど負の相関(一方が増加した場合、他方は減少する傾向)が大きくなります。
点の色は、変数の値を表しており、赤色に近いと値が大きく、逆に青色に近いと値が小さくなっています。全ての変数に対して、おおむね右側の値が赤くなっていることから、値が大きくなるほど土砂災害発生のリスクが大きくなる正の相関があると分かります。ただし、標高については、左側にも値の大きな赤い部分がまとまっているため、標高が大きい場合には、土砂崩壊が起こりにくくなることもあると見てとれます。
アンサンブル学習の手法としては、「ブースティング」もよく用いられます。ブースティングの考え方は下図の通りで、1つ目の学習モデルの結果の誤差を反映し、2つ目の学習を行うことを繰り返して、次々に学習モデルを生成していくものです。
ブースティングによって、橋梁損傷の進展を予測した例が文献4※4です。劣化進展の推定では、栃木県が管理する橋梁の諸元や点検データと、気候や地形などの国土数値情報を利用しています。特に、この文献では、点検の画像データにニューラルネットワークを適用して画像内の特徴量を抽出し、それも説明変数に取り入れるという工夫を施しています。下図は、実際の進展とAIによる予測結果を地図上に表示したものです。
文献5の「インフラ維持管理業務での機械学習活用に向けたモデリング試行と結果の解釈に関する一考察」※5では、決定木やランダムフォレスト、ブースティングなどの手法について、同一の点検データで学習して比較することで、それぞれの長所や短所を整理しています.
このように、同じデータでいろいろな手法を用いて競争的に分析を行うことで、研究開発が進展し、手法の理解が進んで実用化にもつながることから、「Kaggle」などの機械学習のコンペティションも盛んです※6。
アンサンブル学習は、発展を続けており、コンペティションでも好成績を上げている手法の1つとなっています。点検データベースなどの整備と相まって、さらなる精度の向上や応用の拡大が期待されます。
★連載バックナンバー:『“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト』
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “土木テック”の最先端では何が起きているか?インフラAI点検の「フランチャイズ構想」
長野県長野市に拠点を置く土木管理総合試験所は、インフラの維持管理が抱える慢性的な人手不足や人材を採用しても売り上げが伸ばせなくなっている現状に対し、100年後にも持続可能なインフラの維持管理を実現すべく、自社だけに限らない多様な業種との共創も見据えた“土木テック”の研究を進めている。ロボットや点群、AIといった土木テックによって、従来はマンパワーに依存していたインフラ点検が効率化され、長期的な視点で防災・減災や国土強靱化につながると期待されている。 - 高速かつリアルタイムにAIで物体検出する「YOLO」、施工管理や安全確保など建設用途の先端事例【土木×AI第16回】
連載第16回は、建設業界でも幅広く現場適用が進んでいるAIによる“物体検知”の技術のなかでも、検出能力で高速処理とリアルタイム性を併せ持つ「YOLO」の建設分野での多様な先端事例を紹介します。 - スマホで誰でも一人で位置出しが可能に トプコンが考える未来の墨出し
光学技術を生かしながら、施工現場のDXを推進するトプコン。2022年12月に開催された建築総合展「ジャパンビルド」の同時開催展の1つ、「第2回 建設DX展」のブース取材から、墨出し作業の省力化を実現する「楽シリーズ」を中心にレポートする。 - 土木・建築の仕事で役立つ資格1位は「建築士」、レビュー調べ
電気資格研究所JABOは、日本全国の10代以上を対象に「土木・建築の仕事で役に立つ資格」についてアンケート調査を実施し、結果を公表した。