【新連載】建設産業構造の大転換と現場BIM「業界アップデート!マジで、やる。」:建設産業構造の大転換と現場BIM〜脇役たちからの挑戦状〜(1)(2/2 ページ)
本連載では、野原ホールディングスの山崎芳治氏とM&F tecnicaの守屋正規氏が共著で、BIMを中心とした建設産業のトランスフォーメーションについて提言していく。設計BIMについては語られることも多いため、本連載では施工現場や建材の製造工程などを含めたサプライチェーンまで視野を広げて筆を進める。
唯一の答えは建設「プロセス全体」の変革にアリ!
その道を開いてくれるのが“BIM”ということになるのだろう。何事も妄信は良くないが、「全体×変革」をゴールとすると、BIMをベースに考えるしか選択肢はなさそうである。そもそもBIMは単なる設計ツールとしてではなく、そもそもがそうした建設生産プロセスを変革するという概念から産まれ出てきたものなのだから。ポイントは、BIMデータを使って設計から施工、維持管理までのプロセス全体をつなぐことであり、そのデータを利活用して各工程を楽にする仕組みを業界全体で作り上げていくことである。
「楽」というと個人の仕事という狭い範囲にフォーカスされてしまいそうなので言い方を変えると、それは「時間」である。個別の仕事や業務が「早く済む(もしくは自動化されてやらなくて済む)」ということは、工程全体の時間(リードタイム)が短くなることを意味する。時間はイコールコストで、「楽になる」はコストダウンにつながる。さらには、もっと儲けることができるということである。
筆者(野原HD 山崎)が約10年従事した製造業を見てほしい。建設業に比べてはるかに生産性が高いといわれる。それは部品データに始まり、設計、受発注、製造、配送に至るまでサプライチェーン全体がデータでつながっているからに他ならない(世界にもつながっているし、社内でもデータが走っていくことで諸業務が効率化されている)。製造ライン1つをみても、工程間のつながりが強く意識された仕組みになっている。建設業のようなプロセスの断裂による手間や手戻りは最小限に抑えられている。
製造業は大量生産、建設業は一品生産という違いはある。しかし、「建設業は製造業とは違う」と断定してしまうのは、思考停止またはチャレンジ逃避の言い訳に過ぎないし、製造業がそうなったのも、ここ20〜30年の徹底した努力の積み上げであり、建設業だけができないということも断じてあり得ない。
ただし、ここで注意が必要なのが(言い訳の1つにもなってしまう点はあるが)、建設プロセスは複雑で関係者も多いため、例えば一部の工種や一部のプレイヤー、一部の作業に変革がとどまってしまえば、建設プロセス全体からみればほぼインパクトは出ず、小規模の改善にとどまってしまい、結果として現状の問題解決には至らない。だから、一気にプロセス全体を変えなければならない。そのチャレンジが不可欠であり、その起点がBIMなのである。
建設現場に求められる“覚悟”
建設現場で重要な役割を担う人の多くが40代後半〜50代。職長・職人さんは60代で屈強な方もまれではないが、「5年先、10年先はもういないから」というのが本心かもしれない。また現場では、いかに利益を上げるかが最大のモチベーションであり、「将来のためにかける時間やコストはない」というのも日々肌で感じる。
だが、遅々として進まない結果としての将来は自明だ。将来の若い世代に、より大きな荷物を背負わせるわけにはいかない。私たちは、将来の建設業界、ひいては日本経済のためにその責務を果たさねばならないのだ。
ゼネコンの設計部門・施工部門、サブコン、その下請け、商社・問屋、建材メーカー・工場をBIMデータでつなげるのは現実問題として困難を極める。当社グループは、いち建材商社であり、BIMサービス提供会社であって建設業界の中では脇役。ただし、少なくともその覚悟をもって建設業界に対峙して行くつもりである。その表れがこの偉ぶった主張でもある(本当は気の弱い優しい人間です)。ゼネコンその他関係者の皆さまにも肚(はら)を決めていただきたい。
業界関係者全員で最初の一歩を
筆者は、本連載で、BIMを中心とした建設産業のトランスフォーメーションについて提言していく。BIM設計については語られることも多いため、施工現場や建材の製造工程などを含めたサプライチェーンまで視野を広げて筆を進めていこうと思う。新しいことを始めようとすれば、最初は必ず手間でありコストもかかる。
例えば設計者は、BIMソフトウェアの操作を覚えなければならないし、後工程でデータ活用するためのガイドラインに沿って設計業務を進めなければならない。その他の業界従事者も、少なからず今の仕事の仕方を変えなければならない。
ただ慣れてしまえば、必ずそれが当たり前になる。歴史はそれを証明してくれている。そういう当社ら自身もこれまでのやり方を変えようと動き始めたばかりだ。何度も指摘するが、建設プロセス全体を一斉に変えていかなければならない。そのためには全関係者が足並みをそろえて、最初の一歩を踏み出すことが肝要だ。
その先に待っているのは若者にとって魅力に満ちあふれた建設業界である。国を支える建設業は、本来はそれだけで誇りであり魅力であるが、働く場所としてもより輝いた憧れの職業になるべきだ。そういう意味では3K「きつい・汚い・危険」や新3K「帰れない・厳しい・給与が安い」に替わる“逆3K”の提案もいずれ行っていきたいと思う。
海外では、BIMの旗振り役を担っているのは、実は施主/オーナーである。優秀な日本人は、設計がある程度大まかでも施工現場で何とかしてしまうため、BIM導入の効果は海外に比べて小さいといわれる。日本人は知恵者である。だからこそ、それ以上の効果を発揮することができるはず。であれば、なおさら日本においても施主/オーナーのリーダーシップは必要不可欠であり、同じ船に乗っていただくためのメッセージとしても読み取ってほしい。
著者Profile
山崎 芳治/Yoshiharu Yamasaki
野原ホールディングス グループCDO(Chief Digitalization Officer/最高デジタル責任者)。20年超に及ぶ製造業その他の業界でのデジタル技術活用と事業転換の知見を生かし、現職では社内業務プロセスの抜本的改革、建設プロセス全体の生産性向上を目指すBIMサービス「BuildApp(ビルドアップ:BIM設計―製造―施工支援プラットフォーム)」を中心とした建設DX推進事業を統括する。
コーポレートミッション「建設業界のアップデート」の実現に向け、業界関係者をつなぐハブ機能を担いサプライチェーン変革に挑む。
著者Profile
守屋 正規/Masanori Moriya
「建設デジタル、マジで、やる。」を掲げるM&F tecnica代表取締役。建築総合アウトソーシング事業(設計図、施工図、仮設図、人材派遣、各種申請など)を展開し、RevitによるBIMプレジェクトは280件を超える。
中堅ゼネコンで主に都内で現場監督を務めた経験から、施工図製作に精通し(22年超、現在も継続中)、BIM関連講師として数々の施工BIMセミナーにも登壇(大塚商会×Autodesk主催など)。また、北海道大学大学院ではBIM教育にも携わる。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 野原HD、BIM設計/生産/施工支援プラットフォームを提供開始
野原ホールディングスは、BIM設計、生産、施工支援プラットフォーム「BuildApp」のβ版を提供開始した。設計積算や施工管理など、顧客の要望や課題に応じたソリューションを提供する。 - 東急建設と野原HDがBIMモデルからの建材プレカット施工で、作業時間の半減と廃材CO2を削減
東急建設と野原ホールディングスは、施工BIMデータからの建材の精密プレカット施工で、生産性向上と環境負荷の軽減効果を検証した。 - 野原HDがBIMの実態調査、ゼネコンの77%がBIM利用「部門間の情報共有の効率化に不可欠」
野原ホールディングスは、独自に建設DXの実態調査をゼネコンを対象に実施した。調査結果では、DX推進部門と各部門の連携がうまくいっているゼネコンほど、営業/施工/購買調達/積算/設計と各部門のDX化が進んでいる。 - 野原HDが建設DXの実態調査、競合のDXは自社のDX推進に「影響をする」は半数以上
野原ホールディングスは、建設DXの実態調査をゼネコン267社を対象に実施した。調査結果では、競合のDXは自社のDX推進に影響はあると答えたゼネコンは半数を上回った。 - 「建設業は他産業よりも65歳以上の割合が高く高齢化は進む」建設HRレポート
本連載では、建設HR 編集部(旧ヒューマンタッチ総研)が独自に調査した建設業における人材動向について、さまざまな観点で毎月レポートを発表している。今回は、総務省統計局の「労働力調査」を基礎資料に、建設業界の高齢化について考察している。 - コロナ禍でも“建設技術者”は人手不足、建設HRが市場分析
建設HRは、国内における建設業の人材市場動向をまとめた2021年7月分のマンスリーレポートを公表した。今月のトピックスでは、建設業での人手不足感について独自に分析している。