豪雨の浸水深をAI解析、応用地質らが「リアルタイムハザードマップ」を2023年度中に事業化:国土強靭化
防災コンソーシアムのリアルタイムハザードマップ分科会は、防犯カメラ映像をもとに、「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」を利用した画像解析技術で、水面の位置を把握することで浸水深を把握するためのAI解析モデルを開発した。
応用地質は、創立メンバーとして参加する「防災コンソーシアム(CORE)」の分科会で、防災IoTセンサーやSNSなどからリアルタイムに取得する自然災害に関する情報に加え、カメラ映像から発災の予兆や状況を捉えるAI解析技術を活用し、従来の静的なハザードマップから進化した「リアルタイムハザードマップ」の開発を進めている。そのリアルタイムハザードマップ分科会は2022年9月30日、深層学習手法の1つ「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」を利用した画像解析技術を用いて、防犯カメラなどの映像から浸水状況を即時把握するAI解析モデルを開発したと公表した。
防犯カメラの映像をAIで解析し、浸水の発生検知や浸水深を把握
近年、日本の全国各地で甚大な被害をもたらす自然災害が頻発している。特に台風や豪雨で引き起こされる水災や土砂災害は、今後の地球温暖化の進行などにより、さらに増加することが予想されている。
そのため、CORE内の分科会では、災害の到来をよりリアルに認識し、適時の防災行動を促す仕組みの一助となるリアルタイムハザードマップの開発に取り組んでいる。2022年5月19日には、防災科学技術研究所の大型降雨実験施設で、防犯カメラを用いた浸水の発生検知や浸水深を把握するための、映像解析モデルの開発に向けた実証実験を行った。
実験は、施設内に時間雨量15ミリから300ミリまでの降雨を発生させ、施設内に設置したプール内の浸水状況を、セコムの防犯カメラで撮影してモニタリング(日本観測史上最大の時間雨量は153ミリで、1999年10月27日の千葉県香取と、1982年7月23日の長崎県永浦岳)。撮影した映像をもとに、対象物を識別して浸水深を解析するAI解析技術の試作版開発をパスコが担当し、応用地質の防災IoTセンサーで計測した浸水深データとカメラ映像の解析値を比較して検証した。
実証実験後のデータ検証では、開発したAI解析技術によって把握した対象物の解析浸水深と、防災IoTセンサーの計測値との誤差が数センチ以内だったことから、発災の予兆や状況を捉える用途として、十分に活用できる技術だと確認された。
分科会では今後、2019年10月の大雨で多くの被害を受け、防災対策に力を入れている千葉県茂原市の協力を得て、2022年10月よりフィールド検証を実施する。検証は映像解析モデルの精度向上を目的としたもので、洪水ハザードマップをもとに浸水が懸念される地点に防犯カメラを設置して行うという。
また、応用地質は、併せて防災IoTセンサーを設置し、カメラ映像とセンサーデータとの連携やユースケースについてもさらなる実証を進める。今後は、実証実験で得られた技術の実装に向けた取組みを加速し、2023年度中にリアルタイムハザードマップの事業化を目指す。
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