“空き家問題”を解決するベンチャー企業と自治体の「公民連携」最前線(上)〜横瀬町の官民連携や相続リモートサービス〜:空き家問題(2/2 ページ)
総務省の「住宅・土地統計調査」(2019年4月26日公表)によれば、国内の空き家数は一貫して増加し続け、1988年から2018年までの30年間には452万戸(114.7%)が増え、空き家率(空き家戸数が総住宅戸数に占める割合)も2018年には13.6%に達している。深刻化する「空き家問題」に対し、行政と民間が連携した取り組みが求められる一方で、現状ではハードルも多い。
相続に伴う不動産の名義変更がリモートで完了
続いてセミナー主催社側のトップバッターとして登場したのは「そうぞくドットコム」を企画・運営するAGE technologiesの事業開発を担当する伊藤沙季氏。
住人が亡くなった住まいを適切に活用して処分する過程の手前には、必ず登記という手続きが必要となる──そう伊藤氏は語り始めた。AGE technologiesは、相続登記で当該不動産の所有者となる個人を対象に、手続きに関わる課題を解決するサービスを提供している。
伊藤氏によれば、実は相続手続きはハードルが高く、一般人が自ら行うには極めて負担が大きいと指摘する。会社を休み、平日に役所へ通って多くの書類を集め、自身もさまざまな提出書類を作成するとなるとこなしきれず、プロに頼むケースがほとんど。しかし、いざ司法書士に依頼するにもどこに頼めば良いか分からず、見積もりが想像以上に高額であることもしばしばで、結局、後々家族に迷惑を掛けると分かっていても、放置してしまう人が後を断たないそうだ。
住んでいる方が亡くなって家が空いたときに、正しく登記し直すことで、その不動産が将来も適切に管理されるための基盤を整えることが、そうぞくドットコムの目標である。同社のメイン事業のうち、空き家問題と関連するのは「そうぞくドットコム不動産」と「そうぞくドットコムマガジン」の2つ。
特に前者は、所有者本人による名義変更手続をオンラインで多角的に支援し、誰でも簡単に手続きできるようにしようというサービス。完全リモート対応により、居住地が遠方の相続人でも利用でき、書類集めも代行するので、所有者が役所に行く必要はない。もちろん、専門知識や行政書士の協力も要らない。それだけに開始わずか2年で、累計1万1000件の登記で活用され、まさに相続手続につきまとう「よく分らない」を無くし、正しく相続登記してもらうことを支援するサービスといえる。結果として、管理不全な空き家や所有者不明の土地を無くすことにつながっている。
“動かない空き家”を動かすために所有者へ可能性の見える化でアプローチ
3人目の講師はFANTAS technology 事業企画グループ 森山真一氏。森山氏はまず、空き家問題の中心にあるのは、総数849万戸の空き家の中でも、「まだ動いてない」約350万戸の空き家にあると指摘した。
「動いてない空き家」は、所有者の「どうしたら良いか分らない」「どうせ売れない」との思い込みがある。そのため、所有者は行動をためらい、動かない空き家が生み出される。動かない空き家を動かすためには、所有者の意識を変えることが欠かせない。
森山氏が所有者たちと話しても、空き家のままにしている理由を明確に持っている人は少なく、むしろ「いつか手を付けたいが時間がない」「どうにかしたいが方法が分らない」との意見がとても多いとのことだ。その声をすくい取るためには、行政と民間が力を合わせて、プッシュ型施策をとる必要がある。そのアプローチは「売りましょうや貸しましょうではなく、家の価値をちゃんと把握しましょうから、始めなければならない。そうすることで初めて、言葉は所有者の意識に届き、動かすことが実現する」。
空き家の“可能性を見える化”することで所有者の意識を変え、空き家を動かすことへと結び付ける。これが「空き家の可能性の見える化」プロジェクトの狙いである。プロジェクトの流れは、まず所有者へアプローチして希望者に現地調査を行う。その後、詳細な報告書を作り、空き家が持つ可能性やリスクを報告書として見える化する。所有者に実感してもらうことで、空き家を動かすまでにつなげる。
報告書は30〜40ページに及び「売ったらいくらになるか」「貸したらいくらになるか」「貸せる状態か」などの試算や現況を中心に、修繕必要箇所や修繕費用、周辺データまでまとめて提供する。同社では既に4自治体と協力し、プロジェクトを実施済みで、これまで合計で75件あり、「動いてなかった空き家」のうち32件が空き家バンクへの掲載という形で動き始めており、まだ動いてない空き家についても継続的にサポートしていく計画だ。森山氏によれば、現在も自治体へのプロジェクト参加募集は継続しているとのことで、さらなる拡大が期待されている。
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