築50年でも新築同等の耐震性能と内外装、三井不の“リファイニング建築”竣工見学会:リファイニング建築(2/2 ページ)
「リファイニング」とは、建築家・青木茂氏により提唱された老朽化した建築物を新築同様に再生する建築手法。リファイニング建築では、既存構造躯体の約80%を再利用しながら、現行レベルの耐震性、柔軟な間取り、快適性などを実現する。構造躯体をそのまま利用するので、建て替えよりも工期が短く、コストを抑えて物件に新築と同じ価値を付与できる利点がある。また、日影規制に代表される新しい建築基準法の適用を受けず、従来の規模を維持したまま物件の機能を更新できるのも特徴となっている。
建築基準法による制限を回避
建築後に長時間が経過した物件は、建て替えによって新たな規制を受ける事例も少なくない。例えば、建築基準法の日影規制などが相当するだろう。物件の建築当時はなかった規制が適用されると、建て替え前と同規模の建物は建築できない。その結果、規模を縮小せざるを得ず、賃貸物件であれば、収益の低下になってしまう。
一方、リファイニング建築は、既存の構造躯体を利用して、建物を生まれ変わらせる手法。“建て替え”ではないので規制の適用を受けず、改修前と同じ規模の建物とすることができる。
シャトレ信濃町のエリアでも、現在は同規模の建物(9階建て)は建築できず、可能なのはせいぜい5階建てまでになるという。賃貸マンションでは、階数が大幅に減れば収益性を確保するのが難しくなる。
しかし、シャトレ信濃町はリファイニングの手法を取り入れることで、最新の設備と耐震性を備え、さらに眺望も楽しめる収益性を高める物件となった。シャトレ信濃町は三井不動産が賃貸業務を行い、眺めの良い5階以上の部屋は賃料も高めに設定する予定。
CO2排出を大幅に抑えた環境に配慮した改修工事
一般的なリファイニング建築では、既存躯体の80%前後を活用し、新たな意匠や設備を施す。対して、シャトレ信濃町では84%もの既存躯体をそのまま流用した。
本物件では、東京大学との共同研究により、CO2排出量の削減効果も検証。既存躯体を多く活用したことで、仮に同規模の物件を新築した場合と比較すると、72%ものCO2を削減できたことが判明している。
シャトレ信濃町は改装された物件ということで、旧物件の部材を残した意匠も採り入れている。一例として、各部屋の一部には、改装前の建物の塀に使われていたピンク色の御影石を再利用。新規入居者には分からないが、オーナーにとっては昔の建物の名残が感じられ、新築ではなくリファイニングだからこそできることといえるだろう。
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