築年数50年の建物でブレースの使用や建て替えを行わずに耐震補強を実現:リノベ(1/3 ページ)
三井不動産は、2016年に青木茂建築工房と業務提携契約を締結して以降、建て替えと比較した工期の短さや新築時と比較して90%以上の賃料を取れる点などをPRポイントとし、青木茂建築工房が独自開発した耐震補強手法「リファイニング建築」を既築マンション向けに展開している。
三井不動産は、青木茂建築工房とともに、東京都新宿区信濃町で「リファイニング建築※1」を進める既築マンション「シャトレ信濃町」の見学会を2021年10月6日に開いた。
※1 リファイニング建築:既存躯体を再利用してマンションの耐震性を高める手法で、既存躯体の約80%を再利用しつつ、建て替えの約60〜70%のコストで、デザインと用途の変更や設備の一新を行える。なお、シャトレ信濃町は、三井不動産がリファイニング建築を導入した6件目の施設となる。
会場では、シャトレ信濃町 オーナー 木村達央氏や青木茂建築工房 勇上直幹氏、金箱構造設計事務所 金箱温春氏が、リファイニング工事の採用理由と概要について紹介しつつ、見学会を実施した。
既存躯体のせん断耐力と剛性の強化に「ディスクシアンキー」を活用
見学会の冒頭、オーナーの木村氏は、「近年、国内では大規模な地震が頻発していることを考慮し、築年数50年のシャトレ信濃町に耐震補強工事を実施しなけばならないと考えた。そして、シャトレ信濃町の設計・施工を手掛けた建設会社に耐震補強工事について相談したところ、専有部や共有部、駐車場にS造ブレースを取り付ける案を提案されたが、内観と外観の悪化や駐車台数の減少を招くと判明し、その案は断念した。次に、耐震補強を目的とした建て替え工事について、同じ建設会社に尋ねたところ、現行の建築基準法における容積率の規制と日影規制が50年前のものと異なる影響で、9階建てのシャトレ信濃町を5階建てにしなければならないと説明され、採算性が悪くなるため、そのプランも断った」と振り返った。
続けて、「こういった問題で頭を抱えていた時に、三井不動産主催のセミナーで、青木茂建築工房のリファイニング建築を知った。リファイニング建築は、S造ブレースの取り付けが必要無く、建築基準法上の“既存訴求”に適合するため、現状の階数を維持しつつ、耐震補強を図れるとセミナーで教えてもらい、シャトレ信濃町の耐震補強で採用することにした」と経緯を述べた。
シャトレ信濃町のリファイニング建築では、「耐震性能の強化」「コンクリート躯体の耐久性アップ」「居住性の向上」をコンセプトに工事を推進している。耐震性能の強化では、建物の耐震診断で判明した「主に東西方向の耐力不足」を踏まえて、建物の外周部に最低限の補強を施し快適な住環境を構築するために、袖壁(そでかべ)の補強と一部梁(はり)の炭素繊維補強で耐震性能を満たす計画とした。この計画により、耐震性能基準Is値は従来の0.31と比較して2倍の0.62となる見込みだ。
金箱構造設計事務所の金箱氏は、「具体的には、シャトレ信濃町では、各階で内側の柱に耐力壁を設けることで、耐震性能を高める。各階の耐力壁は、地下から天井までつながった鉄筋製の柱と接続することで、通常の耐力壁を設置する手法と比べて、耐震性能を3倍とする。耐力壁と柱や梁の接続には、短い埋め込み深さで高いせん断耐力と剛性を発揮するアンカー“ディスクシアンキー”を使用している」と語った。
青木茂建築工房の勇上氏は、「これまでシャトレ信濃町のようなSRC造の躯体には、耐震補強部材の接続に“あと施工アンカー”が使われることが多かったが、あと施工アンカーはある程度の埋め込み深さが必須で、鉄骨と干渉するという欠点があったため、シャトレ信濃町のリファイニング建築ではディスクシアンキーを採用した。ディスクシアンキーは、1個当たりの価格があと施工アンカーと比べて約10倍だが、設置が容易で省人化を実現し施工費を削れるため、工事全体でかかるコストはあと施工アンカーと大差が無い」と解説した。
また、梁と耐力壁をつなげた場合は、梁に負担がかかるが、対処法として梁に炭素繊維を装着し、強度を向上する見通しだ。
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