空飛ぶ部屋、鹿島建設がPC床版とCLTパネルを用いたユニット化工法を実工事に適用:施工
鹿島建設は、PC床版とCLTパネルを用いたユニット化工法「フライングボックス工法」を開発した。今後は、ユニット化工法の改善と改良を行いながら、研修施設以外の用途建物にも適用を拡大することで、建物の品質や生産性、安全性の向上を図る。また、鹿島建設グループは全国に約5500ヘクタール(東京ドーム1170個分)の山林を保有・管理しており、それらをCLTをはじめとする建材に活用することで脱炭素社会の実現に貢献する。
鹿島建設は、PC床版とCLTパネルを用いたユニット化工法「フライングボックス工法」を開発したことを2022年5月31日に発表した。
在来工法に比べて天候の影響を受けないため計画的に安定した施工が可能
国内では、少子高齢化や新規入職者数の減少に伴い、建設就労者と熟練技能者が低減している中、建設業界では生産性の向上が求められており、いかに現場での作業工数を減らすか、作業内容を平準化するかが課題となっている。
一方、鹿島建設のアジア統括現地法人カジマ・オーバーシーズ・アジア社は、シンガポールで施工中の「ウッドレイ複合施設建設工事」で、PPVC工法※1を日本企業で初めて適用した。PPVC工法は、現場での作業工数削減と作業内容の平準化を目的としたユニット化工法で、工場でプレキャストRC躯体を製造し、内装まで仕上げた後に現場に運搬し揚重して、所定の位置に設置する。
※1 PPVC工法:Prefabricated Prefinished Volumetric Constructionの略称で、建物をモジュール化し、各モジュールを躯体から仕上げまで工場で製造した後、現場に運搬してタワークレーンで組み立てる工法。
しかし、PPVC工法を日本国内で適用するには、耐震性や運べる躯体サイズの制約といった課題があった。そこで、シンガポールで得た知見を基に、日本国内の基準や施工条件に適合するCLTパネルを採用したユニット化工法のフライングボックス工法を開発した。
フライングボックス工法の施工手順は、現場の地組みヤードにPC床版を設置し、プレカットされたCLTパネル(壁4面と天井1面)を組み立てた後、建具、設備機器の設置など内装仕上げ、タワークレーンで揚重して所定の位置に設置する。
次に、ユニット間にあるPC床版の目地に無収縮モルタルを充填し、強度発現を確かめる。続いて、PC鋼より線を通線し、最大10ピースのPC床版をPC圧着工法で緊張して構造的に組み合わせて、PC床版と周辺躯体をコンクリート打設して一体化する。
具体的には、現場敷地内の屋内地上部でPC床版にCLTパネルの壁と天井を組み立て、内装まで仕上げた後に揚重して所定の位置に取り付ける。
特徴は、屋内の地組みヤードでCLTユニットを施工するため、天候や他の作業の影響を受けることなく、計画的に安定した施工が行える他、複数のPC床版をプレストレスによるPC圧着接合することで、現場でのコンクリート打設作業を減らせる点。
さらに、壁と天井にCLTパネルを採用することで、揚重時の安全性と内装仕上げ材に必要な剛性を確保し、床をPC床版とすることで、防火地区でも水平区画が成立して、仕上げ材や設備機器の揚重回数を少なくし、多くの作業が地上部となり高所作業が少なくなるため生産性と安全性が高まる。
加えて、梁(はり)のない構造形式で、CLTユニット内への欠きこみが少なく、広い室内空間を実現しており、壁を「CLT現し仕上げ」とすることで、木が持つリラックス効果を演出し、利用者のウェルネス向上に貢献する。
既に、鹿島建設は、神奈川県横浜市鶴見区で建設中の同社グループ研修施設「(仮称)鶴見研修センター」新築工事に適用し、有効性をチェックした。鶴見研修センター新築工事では、建物の4階と5階の各14部屋や宿泊室(28部屋)の施工にフライングボックス工法を適用し、CLTパネルの組み立てには、外装取り付けアシストマシン「マイティフェザー」を活用して、重量あるパネルの屋内での組み立て作業を効率化した。
なお、CLTユニット揚重に用いるタワークレーンの操作は、地上部からの遠隔操作を実現する「TawaRemo」を導入したことで、オペレーターの作業環境と安全性が高めた。ユニットの揚重には、重量のあるユニットを自動的に水平な状態に調整する吊荷制御装置を活用し、作業性の向上と揚重時の荷ブレを低減した安全な設置を実現した。
今回の施設には、CLTユニット以外にも、新たに開発した「CLT耐震壁」を採用するなど、木材を利用し、CLTパネルには、鹿島建設グループ会社のかたばみ興業が保有する山林から伐採した杉の間伐材を使用した。
鶴見研修センター新築工事の概要
鶴見研修センターは、RC造(一部S造)地上5階建てで、延べ床面積は5809平方メートル。所在地は神奈川県横浜市鶴見区元宮1-19-6で、建物用途は事務所(研修所)。設計・施工は鹿島建設が担当し、工期は2021年7月〜2022年12月。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 竹中と鹿島が共同開発、大阪から名古屋のタワークレーンを遠隔操縦
竹中工務店と鹿島建設は、アクティオ、カナモトと共同で、遠隔でタワークレーンを操作する「TawaRemo」を開発した。実証実験では、大阪に設置した地上の専用コックピットから、名古屋の大型タワークレーンを操作し、材料移動、積み込み、積み下ろしなどの遠隔操作が可能なことを確認した。 - 純木質耐火集成材「FRウッド」を採用した多層ビルが港区で着工、炭素固定量は110トン
ジューテックは、鹿島建設や住友林業とともに、東京都港区で、木造とS造を組み合わせたハイブリッド構造を採用したオフィスビル「ジューテック本社ビル」の開発に着手した。 - 東京・豊島区の「鹿島児童館」を新研修施設「KX-LAB」にコンバージョン
鹿島建設は、近隣社宅在住者の子女に約60年間幼児教育を行ってきた東京都豊島区の「鹿島児童館」を次世代リーダー育成の場としてコンバージョンし、新研修施設「KX-LAB」に生まれ変わらせた。KX-LABは、鹿島グループの成長・変革(トランスフォーメーション)に向けた新たな人材開発の拠点となる見込み。 - リアルタイム位置情報システムをBIMと連携、羽田隣接の「HICity」で施設運営ツールに導入
鹿島建設は、GNSS環境が無い現場でも、資機材や作業員の位置を把握する現場管理システムをBIMとリンクさせることで、商業施設内の人やロボットの動きを可視化して、施設運用の効率化につなげることを目指している。