三菱電機らが業界初“ドップラーライダー”で現場上空の風を可視化、2023年に提供開始:第4回 建設・測量生産性向上展
三菱電機、竹中工務店、アクティオは、高所作業の安全確保を目的に、現場上空の風の状況をレーザー照射機と独自ソフトウェアで可視化する風況データソリューションの開発を進めている。
三菱電機、竹中工務店、アクティオの3社は2022年5月18日、遠方の風況をレーザー照射で計測する装置「ドップラーライダー」で、リアルタイムに風向きや風速など建設現場上空の“風を見える化”するソリューションを2023年度中に提供開始すると発表した。「第4回 建設・測量生産性向上展(CSPI-EXPO)」(会期:2022年5月25〜27日、幕張メッセ)の屋外展示場アクティオブースでは、実機のドップラーライダーで風況を計測して、AIで危険度を予測するデモを行った。
数百メートル〜数十キロ先の風速や風向をリアルタイムに計測
建設現場は、地形や気象変化などにより、日々さまざまな風の影響を受けている。特に地上から高い場所で作業を行うタワークレーンなどの大型建設機械は、強風や突風で機械作業の中断を余儀なくされたり、工事用エレベーターは給電ケーブルが強風で絡まって断線して工事の中断や事故につながったりするリスクが常に付きまとう。そのため、現場の安全性と生産性のさらなる向上には、上空の風の状況を精細に把握することが不可欠とされていた。
今回、3社で開発を進める風況ソリューションは、建設現場の風の状況を高精度に把握し、ソフトウェアサービスを通じて、顕在的かつ潜在的リスクを直感的に分かりやすく作業現場に伝達する。
使用するドップラーライダーは、鉛直上向きにレーザー光を照射し、40〜250メートル上空を測定。単一周波数のパルスレーザーで、大気中のちりや微粒子の動きを捉え、数百メートル〜数十キロ先の風速や風向きをリアルタイムに、気象データでは得られない地域特性も加味した風向き精度で0.5度などの高い精度のデータを得られる。機器のサイズは551×516×551ミリで、固定式ではないため必要な場所に持ち運べる。
独自のソフトウェアは、ドップラーライダーから得たリアルタイムの風向きや風速のデータをクラウドを介して、Webブラウザで約5メートルごとの高さで分かりやすく表示し、現場監督や作業員の適切な判断や意思決定に役立てる。また、API連携により、他のアプリケーションと連携させることも可能。今後は、現地の風況データを蓄積し、気象予報データとの相関をクラウド上の三菱電機のAI技術「Maisart(マイサート)」で機械学習することで、各現場それぞれに応じた特有の風況と危険度をあらかじめ予測する機能も実装する。
2022年3月2〜4日には、大阪・南港北のアクティオ大阪DLセンターで共同実証実験を実施した。その結果、地上風と上空風の風速と風向き情報(リアルタイム、平均/最大/最小風速、風速高度分布など)を可視化したことで、建設現場での風に関わる諸課題の解決可能性を見いだせたという。
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