大成建設がRC造高層住宅用の耐震改修構法を開発、最上階の約1.3mの揺れを30%以上低減:耐震
大成建設は、RC造の高層住宅を対象に、地震エネルギーを効率的に吸収するオイルダンパーと間柱の集約配置により構築されたフレームを設置するだけで補強が可能な構法「T-レトロフィット制振」を開発した。新構法は、今後発生が懸念されている巨大地震による長周期・長時間の地震動に対して優れた制振効果を発揮する。
大成建設は、建物中央部に吹き抜け空間が配置されたRC造の高層住宅に対応する耐震改修構法「T-レトロフィット制振」を開発したことを2021年9月2日に発表した。
専有部での工事が不要
国土交通省は、2016年6月に公表した「南海トラフ沿いの巨大地震に関する通知」で、一部地域における新築高層建物の設計を対象に、従来の想定を大きく上回る地震動に対する検討を課した。一方、国内では、既存の高層建物でも巨大地震への安全性の再検証や必要に応じた補強などの対策が望まれている。
解決策として、これまで建物の耐震改修では、既存の柱や壁を強化する方法、新たにブレース(建物変形を防ぐための補強材)とダンパー(地震等の揺れを軽減・減衰させる装置)を設ける手法などが存在した。
しかし、高層住宅では、建物規模が大きいために、上記の設置工事が大掛かりになることや居住者の専有部での工事が難しいなどの課題があり、耐震改修の実施が困難な状況にあった。
そこで、大成建設は、建物の共用部に当たる中央部の吹き抜け空間を持つ高層住宅に対し、地震エネルギーを効率的に吸収するオイルダンパーと間柱の集約配置により構築されたフレームを設置するだけで補強が可能なT-レトロフィット制振を開発した。
T-レトロフィット制振では、既存建物の梁(はり)側面から吹き抜け空間に張り出した片持ち梁と階層をつなぐ間柱により頑強なフレームを構築し、このフレーム内に地震などの揺れを抑えるオイルダンパーを設ける。
さらに、専有部での工事が不要なため、居住者が退去せずに改修工事を実施可能で、耐震性の向上を図れる。そして、新たに構築されたフレームは、新設した片持ち梁により既存建物と各階を接続する構造となっており、地面との接触が必要なく、建物ロビーや低層部に影響を与えずに施工を行える。
新構法では、長周期と長時間に渡り繰り返す地震動に対しても有効に作用するオイルダンパーを活用する。オイルダンパーを上記の頑強なフレームを介して3〜5層にまたがるように配置し効率よく地震のエネルギーを吸収。
大成建設は、T-レトロフィット制振の有効性を調べるために、高さ約130メートルのRC造既存高層建物で得られるT-レトロフィット制振の効果を検証した。結果、T-レトロフィット制振の採用により、南海トラフ地震で発生が予想される最上階で生じる最大約1.3メートルの揺れを30%以上低減し、地震の揺れを90センチ以下に抑えられることが分かった。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 尾鷲ヒノキを活用した市役所の耐震工事が完了、竹中工務店のCLT耐震壁を初適用
竹中工務店の設計・施工による尾鷲市役所本庁舎の耐震改修工事が完工した。耐震改修工事では、地元のヒノキをCLTに活用した他、庁舎機能を維持しつつ、業務を継続しながら工事を実現するために、さまざま種類の補強方法を採用している。 - 建築構造物に適用へ、後施工耐震補強工法「ポストヘッドバー工法」
大成建設は、地中土木構造物の後施工耐震補強工法である「ポストヘッドバー工法」を、建築構造物の耐震補強工事にも積極展開するため、都市居住評価センターの構造評定を取得した。 - 耐震リフォーム向けオリジナル工法開発、フルスケルトン/部分的のどちらのリフォームにも対応
住友林業ホームテックは、木造住宅の耐震リフォームを対象にオリジナルの面材耐力壁を使用した工法を開発した。新工法は、耐震性を確保しつつ、施工性の向上も図り、工期短縮やコスト削減ももたらす。 - 安藤ハザマが導入を進める自社製作の新ブレース工法、既設ビルの耐震改修にも
安藤ハザマは、既設のビルや工場の耐震改修に対応するコストを抑えたブレース工法を提案しており、既に大型の物流施設などで導入実績を重ねている。