尾鷲ヒノキを活用した市役所の耐震工事が完了、竹中工務店のCLT耐震壁を初適用:CLT
竹中工務店の設計・施工による尾鷲市役所本庁舎の耐震改修工事が完工した。耐震改修工事では、地元のヒノキをCLTに活用した他、庁舎機能を維持しつつ、業務を継続しながら工事を実現するために、さまざま種類の補強方法を採用している。
竹中工務店は2021年4月末、同社が設計・施工(JV)を手掛けた三重県にある尾鷲市役所本庁舎の耐震改修工事が完了したことを発表した。本庁舎の耐震改修工事では、「安心安全」「再生」「尾鷲らしさ」をコンセプトに、地産地消の観点から地元尾鷲産のヒノキを積極的に活用することを目的に、CLT(Cross Laminated Timber:直交集成板)の新開発部材「CLTエストンブロック」をはじめ、木を活用したさまざまな耐震改修工法を適用している。
今回の耐震改修により、災害応急対策活動に必要な建物が満たすべき「官庁施設の総合耐震計画基準」で定める2類(Is値20.75以上)に向上した。
ヒノキのCLTを蝶々形に削り出し、積み上げた耐震壁
尾鷲ヒノキは、市民利用エリアで積極的に採り入れることを考慮し、正面玄関の外回りには鋼板とヒノキの集成材を組み合わせ、市松状に配置して層間に生じるせん断力を伝達させる鋼板耐震壁「耐震市松」、さらに風除室にはヒノキのCLTを蝶々形に削り出した新開発部材のCLTエストンブロックを組み上げて耐震壁に初適用した。
庁舎内部では、無垢材の木圧着ブレース「T-FoRest Light」、市民ホールの天井木製ルーバーなど、内装仕上げ材でも尾鷲ヒノキを採り入れ、木の香りや温もりに溢(あふ)れる落ち着いた空間を創出した。
竹中工務店と北海道総研・林産試験場、芝浦工業大学、北海学園大学との共同研究で開発したCLTエストンブロックの耐震壁は、2014年に竹中工務店が開発したコンクリート製の「エストンブロック」と同様に、蝶々形をした木のブロックを積み上げて構築する壁。ブロック同士は、エポキシ樹脂と呼ばれる接着剤で接着して積み上げている。耐震壁としては、ブロック同士が噛(か)み合う力が働き、横ずれが発生することなく効率的に地震力を伝達できる特性を有する。素材がコンクリの耐震壁は2014年7月に、日本ERIの構造性能評価を取得している。
木質材はコンクリート製よりも、加工自由度が高く、3次元加工により立体的で陰影のある表現を可能にした。また、CLTエストンブロック1つの重さは4キロ程度と軽量で扱いやすく施工性にも優れる。
本庁舎耐震改修工事の概要は、竹中工務店の設計、竹中工務店・丸昇建設JVの施工で2020年4月に着工し、2021年3月に完了した。本庁舎の所在地は、三重県尾鷲市中央町10番43号で、建物自体はRC造地下1階・地上3階建て。
竹中工務店は、「森林資源と地域経済の持続可能な好循環」を目指す、森林グランドサイクルを推進。今後も、木のイノベーション・木のまちづくり・森の産業創出・持続可能な森づくりの4領域で、多様なステークホルダーとともに、街と森が生かし合う関係が成立した地域社会「キノマチ」を実現させていくとしている。
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