木質構造物の高層化という挑戦 Vol.1:木の未来と可能性 ―素材・構法の発展と文化―(4)(2/2 ページ)
本連載では、一級建築士事務所 鍋野友哉アトリエ/TMYAを主宰する一級建築士の鍋野友哉氏が、近年環境に優しいなどの理由で関心を集める木材にスポットライトを当て、国内と世界における木造建築の歴史や最新事例、木材を用いた構法などを紹介する。今回は海外の高層木造建築物を採り上げる。
3.Atlassianの本社ビル
Brock Commons Tallwood HouseやMjøstårnetのように、木造で10〜20階建ての建物を建設することが可能になってくると、S造やRC造に対して、軽量である木材を活用したマスティンバーを組み合わせることで木質化された超高層建築物といったプロジェクトも、今後は世界で増えていく未来も見えてきます。
そして、まさにオーストラリアのシドニーで、Atlassian(アトラシアン)の本社ビルが木質ハイブリッドの超高層建築物として計画されています。このプロジェクトは、地上40階建てで高さ181メートルとなる見通しで、2025年の竣工を目指しています。
この建築物は鉄骨を用いたメインフレームの中に、マスティンバーの技法を用いた構造物を挿入しています。つまり、鉄骨によるスケルトンとマスティンバーによるインフィル(内装)で構成された建築物で、屋上も大規模に緑化される予定です。
このように、世界的には、高層建築物や高さ100メートルを超える超高層建築物でも木質化するトレンドの波がきています。さらに、合板や集成材、LVLなどの「Ply(プライ、積層物)」と高層建築物を指す「Skyscraper(スカイスクレイパー)」を掛け合わせて、「Plyscraper(プライスクレイパー)」という木質化された高層建築物を指す言葉も生まれています。
日本でも、木造建築物を高層化する波はきており、一例を挙げると、三井不動産と竹中工務店が東京・日本橋で、地上17階建て高さが70メートルの木造建築物を開発中です。完成すれば国内で最大級の木造建築物となります。
国内では、歴史上の経緯もあって、建築基準法では木造の耐火性能がとても低く位置付けられてきました。しかし、上記で述べてきた通り、近年、環境意識が高まっている中で国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)およびその中で議論されている炭素排出権取引といった国際的な話し合いから、日本国内においても都市部で木造化を実現できるように法改正や法整備が進んできています。
次回は、日本国内で進行中のプロジェクトや木造で設計する際に求められる耐火性能と手法について触れていきます。
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