【第2回】建設業は“残業規制”にどう対処すべきか?工事監督の業務時間を1日1.5時間削減した事例から:建設専門コンサルが説く「これからの市場で生き抜く術」(2)(2/2 ページ)
本連載では、経営コンサルタント業界のパイオニア・タナベ経営が開催している建設業向け研究会「建設ソリューション成長戦略研究会」を担う建設専門コンサルタントが、業界が抱える諸問題の突破口となる経営戦略や社内改革などについて、各回テーマを設定してリレー形式で解説していく。第2回は、建設業にも差し迫る時間外労働の上限規制にどのように対応していくべきか、業務改善の事例を交えレクチャーする。
「やるべきでない業務」が行われている4つの真因
業務改善を実施するにあたり、表面的な改善だけでは一時的な改善に終わってしまい、失敗に終わることが多い。真の解決のためには問題の根本を探り、根本から改善を実施しなければならない。同社でも、「やるべきでない業務」を行っている原因(真因)として、以下の4つが挙げられた。
・(原因1)工事監督と事務スタッフとの作業分担、役割分担が不明確
・(原因2)営業所ごとに独自のノウハウで業務を遂行しておりバラつきが発生していた
・(原因3)工事監督のスキルの低さやバラつきにより労働時間が長くなっていた
・(原因4)営業、設計とのコミュニケーション不足による手戻りが多かった
改善の実行は、社内でプロジェクトチームを立上げ、現場主導で行った。それぞれ実施した内容について具体的に記載すると、原因1に対しては、工事監督が行っていた事務作業(とくに書類作成など)を事務スタッフに移管するために、業務フローの変更・新規作成を行い、事務スタッフがやるべき業務(=工事監督がやるべきでない業務)を明確にした。事務スタッフがいない営業所は新たにパート社員を採用した。
原因2では、営業所ごとのバラつきを無くすために、使用している帳票を見直し、標準化を行った。一部業務でのデジタル化(タブレットを使った現場管理や申請書作成など)も併せて行った。
原因3の改善方法は、工事監督のスキルアップのため、まずはスキルマップ(力量評価表)を作成し、工事監督のスキル・力量の見える化を行い、その上で教育計画を見直した。短期的には教育時間が加算されるが、中長期でみれば、個人のスキル・能力が高まることで業務処理能力が向上し、時間短縮につながる。
最後に原因4では、営業、設計とのコミュニケーション不足解消のため、とくに工事の着工前に行う「工事引継着工会議」の改善を実施。会議自体の問題点として議事録が作成されておらず、担当者や期限の設定が甘かった。会議で使用する帳票を見直し、後工程で手戻りが発生しないように対策をとった。その他、不要な会議や社内打ち合せは極力無くし、他拠点同士の情報共有の場など、必要な会議を新設した。
同社では上記のような取り組みを実施し、1日1〜1.5時間の削減に成功した。業務移管や見直しによりできた時間を本来のやるべき業務に費やすことができるため、単純な時間短縮にはなりにくいが、確実に業務改善は進んでいる。工事監督のスキルアップなど中長期的に効果が出るものもあり、今後さらなる時間短縮が期待される。
III.最後に
建設会社における「工事監督の働き方改革」の事例を紹介したが、働き方改革を進めるに当たっての3つのステップを参考にして欲しい。
Step1 正しい現状認識・把握を行う
Step2 やるべき業務とやるべきでない業務を仕分ける
Step3 「やめる・改める・置き換える」の観点で業務を見直す
何にどれだけ時間をかけているのか、果たしてその業務は必要なのか、不要なのか。そしてその業務をどのようにして効率化させるのか。ステップを踏むことで着実に「働き方改革」は進むと筆者は考える。
最後になるが、「働き方改革」を進めていくために重要なポイントは、現場の社員がその必要性を感じ、主体的に取り組むことである。さらに改革のためには少なからず「負荷」が掛かることを認識することも重要となる。この「負荷」とは、改善に向けた前向きな「負荷」を指す。後ろ向きな「負担」と感じてしまうと、一気に改革は停滞してしまう。「負担」と感じさせないことが、経営トップ、経営幹部の重要な役割なのかもしれない。
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