鹿島らが年間空気搬送エネルギー消費量を最大約44%減らす制御空調システムを開発:製品動向
鹿島建設は、ダイキン工業と共同で、分散ファンによる風量の制御空調システム「OCTPUS」を開発した。OCTPUSは、大規模なオフィスビルなどで採用されるセントラル空調方式に適し、各空調ゾーンにファン付風量制御装置を設置して、空調機と連携させることで空調の風量制御を最適化する他、建物の省エネ化も果たす。
鹿島建設は、ダイキン工業と共同で、分散ファンによる最適風量の制御空調システム「OCTPUS(Optimal Controlled Terminal fan Powered Unit System)」を開発したことを2021年1月14日に発表した。
空調機を停止しFPUのみで給気することも可能
建物運用時の消費エネルギーは、空調機から空気を搬送する際のエネルギーが全体のうちの約15%を占め、オフィスビルなどの空調設備では、省エネを目的に、室内における発熱量の変化に応じて風量を制御する「VAV(Variable Air Volume)システム」が採用されている。
VAVシステムは、OA機器や人体の発熱など熱負荷の大きい空調ゾーンで空調機の給気圧力を決定し、熱負荷が小さいゾーンでは設備内のダンパを閉じることで風量をコントロールしている。しかし、ダンパを閉じた時に生じる摩擦抵抗により、空気を運ぶエネルギーを損失してしまっていた。
解決策として、鹿島建設は、ダイキン工業とともに、OCTPUSを開発。OCTPUSは、各空調ゾーンに分散して設置されるファン付風量制御装置(FPU)と空調機内の給気ファンを連携し、個々のエリアで発生する熱負荷に応じた風量の空気を最適な温度で供給する。FPUの運転により、それぞれの分岐ダクト経路に送風制御も行うため、エネルギーロスを防げる。
また、空調機とFPUの両方を制御できるため、処理すべき熱量が少ない場合には、空調機を停止しFPUのみで給気することも可能で、これにより制御下限の風量を10%程度まで絞れ、低い給気温度の維持が容易で、快適な湿度環境の構築と省エネを実現しやすい。
省エネに関してOCTPUSは、一般的なオフィスビルをモデルとしたシミュレーションで、VAVシステムに比べて、年間空気搬送エネルギー消費量を最大約44%減らせると試算されている。同時に、室内の相対湿度を50%前後の快適な範囲で保てることも明らかになっている。
OCTPUSのサイズは、FPUが給気圧力を分担することで空調機のファンサイズが小さく、機械室のスリム化にもなり、導入した建物は、1フロア当たりのオフィス面積が約1%増大する。
今後、鹿島建設は、神奈川県横浜市西区で2019年4月から開発を進めている複合施設「(仮称)横濱ゲートタワープロジェクト」で、オフィス基準階の5〜19階にOCTPUSを導入し、総数で約1200台のFPUを取り付け、建物の省エネルギー化や利用者の快適性向上、オフィス面積の増床を図る。
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