感染制御学の第一人者が評価する“コロナに強い”清水建設の東北支社新社屋:ZEB(1/2 ページ)
清水建設は、2021年3月に完成した東北支店新社屋で、75%超の省エネ認証「Nearly ZEB」の取得を目指す。省エネ技術の一つとして、感染症対策で有効とされる床から天井へ向けて空調空気を押し上げ、上部で排気する「床吹き出し空調システム」を導入している。
清水建設は2021年3月2日、同社の東北支店が企画・設計・施工を手掛け、感染症対策に有効な空調システムや大地震に強い免震システムなど、各種の先端技術を備えた宮城県仙台市青葉区の「清水建設東北支店新社屋」が竣工したと公表した。新社屋は、1971年に建設した旧社屋の老朽化に伴い計画し、「省エネ」「事業継続」「快適性」をテーマに設計を進め、旧社屋の解体を終えた2019年11月27日に着工した。
順天堂大学 堀賢教授が評価した「床吹き出し空調システム」
ビルの構造・規模は、混構造(S造、RC造、一部SRC造)、柱頭免震構造で、地下1階・地上6階建て、延べ床面積5588平方メートル。新社屋の外観南面は、仙台七夕祭りの吹き流しをモチーフに、12枚のガラススクリーンを連続的に配置することで、周辺の街並みや空などを映し込み、周囲環境との一体感を醸成。また、自然通風が可能な大きな窓開口や屋外テラス、個別制御が可能な照明・空調、多様な執務スペースなどで、社屋内に五感に響く豊かな快適空間を創出している。
省エネの核となる技術は、「地中熱利用システム」「床吹き出し空調システム」「躯体蓄熱放射システム」。3つのシステムが連携し、他の省エネ技術と併せて75%超の省エネ「Nearly ZEB(Zero Energy Building)」を実現させる。システム連携は、新社屋下の地中と建物の床躯体(コンクリート)の中に走らせた直径13ミリの導水管内に水を巡回させ、地中の温度が年間を通して約15度前後で一定な特性を活用している。夏場は、地中熱で20度の水温を15度に自然冷却した水が床躯体を冷やし、冬場は地中で10度の水を15度に加熱した水が床躯体を温めて地中に戻る。
地中熱利用システムの循環水により、床躯体の温度は、年間を通じて24度に保たれ、その熱で床躯体と2重床(OAフロア)の空気温度を調整し、空調に利用。最終的には、床吹き出し空調システムとして床面全体から空調空気が居室内に供給される仕組み。
床吹き出し空調システムの特徴は、特殊加工したフロアカーペット全体から秒速1センチ以下で供給される空調空気が床面から徐々に貯(た)まっていき、最終的には天井面から排気されることにある。背丈相当の居住空間に限った空調が可能で、しかも空調空気は人やPCなどの発熱体が発生する上昇気流に吸い寄せられ、空調が必要な場所に空調空気が集中する。
一方向の気流しか発生しないため、新型コロナウイルスの感染ルートの一つとされている“マイクロ飛沫”に対しては効率良く排気される。感染制御の第一人者として知られる順天堂大学医学部大学院 医学研究科 感染制御科学 堀賢教授は、「人体からのマイクロ飛沫は体温で温められて上昇する傾向にあり、床から天井へ向けて空調空気を押し上げ、上部で排気する考え方は理にかなっている。上向きの気流によりマイクロ飛沫を人の呼吸域から速やかに除去することが可能で、感染リスクの低減が期待できる」と評価されたという。
他にも新社屋では、感染症対策で、自然通風を用いた各階の換気、自動水栓やドアレス化による接触機会の削減、接触箇所への抗菌フィルムの設置、Web会議を促進するブースの設置などの措置を講じている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.