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最新のFMに触れる、そして学ぶ方法(下)−資格試験を受ける。部会活動に参加する−いまさら聞けない建築関係者のためのFM入門(10):(3/3 ページ)

本連載は、「建築関係者のためのFM入門」と題し、日本ファシリティマネジメント協会 専務理事 成田一郎氏が、ファシリティマネジメントに関して多角的な視点から、建築関係者に向けてFMの現在地と未来について明らかにしていく。今回は、会場を用意して開催していたこれまでのファシリティマネジメントフォーラムと、今回初の試みとなったオンライン版との比較、さらに認定ファシリティマネジャー資格の有用性を解説する。

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<エピソード>現場マンも、認定ファシリティマネジャー資格を取りなさい!

 認定ファシリティマネジャー資格の有用性を説明するために、筆者の体験談を紹介しよう。筆者は以前、ゼネコンに在籍していたとき、ある企業のFMに関するコンサルティングで、企画、設計、施工が一貫の本社オフィス工事に携わった。企画段階では、担当者が顧客の現状評価を目的に、満足度調査などを実施し、課題を抽出して、的確な要求条件書を作り、各資料を基に設計者が建物の設計を行った。設計者は、FMの知識があったため、顧客の意向も十分に把握し、筆者から見ても完成度の高い設計をしていた。

 しかし、認定ファシリティマネジャー資格を保有する施主側の担当者は、着工後、現場で建築と設備の分野を担うあるスタッフにワークプレースとFMの話をしたが話が通じないことを不満に感じ、そのスタッフにFM知識の必要性を説いたところ、そのスタッフは、「私たちは図面通りつくるので問題ない」と言い返した。

 すると、施主側の担当者は、「(現場のスタッフは、)建築のプロなのにFMのことも理解していないのはいかがなものか」と思い、FMの教科書を購入し、そのスタッフに渡して「ファシリティマネジャーの資格を取るように」と告げた。そう言われたスタッフは、「忙しいので」と断ったが、施主側の担当者は引かなかった。とうとう施主側の担当者は、筆者に「あなたの会社はFMをやっているというが、現場マンは理解していない。いかがなものか。社内教育を進めるべきだ」と厳しい言葉を口にした。

 その言葉の重みも受け止めたスタッフは多忙の中、猛勉強に励み、認定ファシリティマネジャー資格の試験を受験して、見事に合格し、面目躍如を果たした。後になって、そのスタッフは、発注者側に所属するファシリティマネジャーの発言の意図を理解するようになり、コミュニケーションも良好になった。さらに、インテリアや家具工事といったワークプレースの工事にも理解を示し、大変スムーズに進んだ。このケースは、認定ファシリティマネジャーの資格取得が建築プロジェクトで最も必要なコミュニケーションの向上に大きく寄与した好例と言えよう。

部会活動に参加する

 ここからは、筆者の持論を述べたい。建築の世界に入ると、どうしても同業者との付き合いが多くなり、知識も建築関係が中心となる。今でこそ働き方改革で時間管理も厳しくなってきているが、高度成長期には残業が当たり前で、実に多忙な業界だった。筆者は30代の頃、ある施主に、「忙しいので……」と言ってしまった。すると、「忙しいと言う字は、心を亡(ほろ)ぼすと書く。もっと自分を大切にしなさい」と返され、なんとも恥ずかしい思いをした。まさに若気の至りであるが、うっかり今でも発言しそうになる。それは忙しいという逃げ場を作っているのかもしれない。だが、それはゆとりを創出できない能力の無さを暴露していることに他ならないのだ。

 説教じみた話になったが、忙しい建築業界の読者にも勉強時間を設け、認定ファシリティマネジャー資格を取得してもらいたい。そして、認定ファシリティマネジャー資格を保有したら、JFMAの調査研究部会に入って活動してもらいたい。

 こんなことを記述すると、業界関係者から「まさに、忙しくてそれどころではない」とコメントされそうだが、JFMAの調査研究部会は、さまざまな出会いが人生を豊かにしてくれるし、参加者を成長させる。調査研究部会は18グループあり、各調査部会は月に1回程度の頻度で集まっており、現在は新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて、ビデオ会議システム「Zoom」でミーティングを重ね、テーマを決めて賑(にぎ)やかに意見交換している。

 調査研究部会の会議は、JFMAが業界団体では無いということが作用し、産官学民が分け隔てなく自由に意見を交わせる場となっており、参加者の凝り固まった頭をほぐすのにも貢献している。調査研究部会への参加は、あくまで会員のボランティア活動で、ギブアンドテイクの関係だ。調査部会は、情報だけを取りたいという人には合わないかもしれないが、共通のテーマで、多様な人が集まって議論するのに適しており、ダイバーシティーの醍醐味(だいごみ)を感じられ楽しい。

 筆者もできることなら、全部会に参加して、部会のメンバーと意見交換したい。部会によっては、合宿をやったり、見学会をしたり、出版をしたり、講演会を開催したりと多様で、大人の知的遊び場にもなっている。お試し入部制度もあるので、読者の皆さんも調査部会に顔を出してもらえれば幸いだ。


JFMAの18グループの調査研究部会

著者Profile

成田 一郎/Ichirou Narita

2011年7月、社団法人日本ファシリティマネジメント推進協会(現:公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会:JFMA)常務理事兼事務局長に就任。2016年6月には日本ファシリティマネジメント協会 専務理事に就任し、現在に至る。

一級建築士。認定ファシリティマネジャー。

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