住友林業が「W350計画」で目指す“環境木化都市”と実現に必要な木化技術とは?:高さ350mの木造超高層ビルの構想(3/3 ページ)
住友林業が展開するビジネスの根源には、植林・育林の技術にある。同社が掲げる「W350計画」は、この技術をさらに前進させ、“環境木化都市”の実現を目指す研究開発構想だ。気候変動の抑制に向けた建築時の総排出CO2「エンボディド・カーボン」の減少を目標とし、同社では「MOCCA(木化)」事業を進めている。MOCCAでは、木材を使って耐久性が高く快適な建築空間を実現すべく、耐火部材の開発やゲノム選抜育種などに取り組んでいる。
木の価値を高める3つの技術
講演では、W350計画を実現するものとして、住友林業が取り組む3つの技術についても説明がなされた。
一つ目は、耐火部材だ。日本の場合は、15階以上の建築物では火に3時間さらされても、柱や梁(はり)などの構造部分を担保できる材料を使用するという耐火建築物の規定がある。これに関して住友林業では、燃焼のメカニズムを追究し、木以外の素材を使用せずに延焼を防ぐ技術の研究を進めている。現在は、2時間耐火の部材が完成し、3時間耐火でもめどがついているという。
二つ目は、ゲノム選抜育種。苗木のDNAを分析し、その木がどのような木に成長するかをあらかじめ予測するものだ。これにより、木の成長を待たずに、短期間で優良木を育てられるようになる。住友林業では、優良な遺伝情報を持った木を増殖させる技術も合わせて開発を進めている。
最後は、人への効果だ。中嶋氏は「感性的な内容は難しい」と話す。「木は良い、緑は良い」というのは誰もが口にすることだが、それを数値化・可視化しユーザーに価値を認めてもらえるようにするのがこの技術だ。生産性を高めるには、どのようにしたら良いのかといったことについても、エビデンスを蓄積している。
この後、中嶋氏はW350計画の実現に向けた開発のロードマップを解説。現時点では課題と詳細内容をまとめ、既にPDCAサイクルを回している。これに関しては、具体的な1歩として、20〜30メートル級(6〜8階建てクラス)の木造ビルの建築計画をスタートしていることも明かし、講演を終えた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- プロジェクト:住友林業と熊谷組が海外プロジェクトで初協業、コンドミニアムと商業施設の開発に着手
住友林業と熊谷組は2017年の業務・資本提携以来、8つの分野で分科会を立ち上げ、協業に向けて取り組んできた。このほど、両社がアジア地域で不動産開発事業に乗り出すために、合弁会社SFKGを設立し、第1弾としてインドネシアで、高層コンドミニアムと複合商業施設の開発プロジェクトに着手する。 - 検査・維持管理:衛星「だいち2号」のデータを自動解析する“JAXA”のインフラ予防保全
衛星を使って河川堤防や港湾などのインフラ変位をモニタリングするJAXAのツールが商業利用の段階に一歩前進した。2019年8月から事業化できる民間企業を募集しており、このほど中日本航空とSynspectiveが選ばれ、商用利用に向けて大きく前進した。 - 維持管理:住友林業が筑波研究所に木造の新研究棟完成、ZEB実現も視野に
住友林業は筑波研究所に木造の新研究棟を完成した。同施設は同社の「W350計画」研究拠点となる。ゼロエネルギービルディング(ZEB)の実現も視野に入れ省エネや再生エネルギーを利用していく。 - 産業動向:住友林業と長門市が包括協定、持続可能な森林経営を目指す
住友林業と山口県長門市が「林業成長産業化に関する包括連携協定」を締結した。長門市の森林資源を循環利用することで、林業や木材産業の成長と地元経済の活性化を促すことを目的としている。 - 住友林業が床への衝撃音を大幅に吸収する“高遮音床”を開発、賃貸住宅に採用
住友林業、住友ゴム工業、マックストンは共同で、賃貸住宅のフローリング向けの“高遮音床”を開発した。創業以来「木」を軸に事業を展開してきた住友林業の木の知見と木造住宅のノウハウ、熊本城への制振ダンパー納入実績がある住友ゴムのタイヤ材料研究の知見、住宅建材の開発に携わり続けているマックストンの各技術を集結させ、業界最高レベルの高遮音性を備えた床を実現させた。 - 建機遠隔操作:日本の林をテストフィールドに4社連携の「無人架線集材システム」、宇宙へ
熊谷組、住友林業、光洋機械産業、加藤製作所の4社グループは2019年1月30日、国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)と林業機械システムの月面での運用に向けた共同研究契約を締結したと発表した。各社の技術を活用し、無人化された「架線集材システム」を開発する。当面は、国内林業での適用を見込み、将来的には宇宙探査への応用を目指す。一見、異次元的にも見える連携の背景には、林業と月面探査、そして建設業をも悩ませる共通の課題が存在した。