木と鉄骨の耐震システムが渋谷の13階建てオフィスビルに適用、耐火建築物で“木の現し”:導入事例
前田建設工業が開発した木と鉄骨を融合させた耐震システム「木鋼組子」が、道玄坂一丁目で東急不動産が計画しているオフィスビルに採用されることが決定した。S造と木造のハイブリッド構造を採り入れたオフィスとしては、国内最高の13階建てであり、高層建築物への木材利用を促進する先導的なプロジェクトとなる。
前田建設工業は、ホルツストラ(旧・稲山建築設計事務所)と共同開発した木と鉄骨を組合わせたハイブリッド耐震システム「木鋼組子(モッコウクミコ)」を、2020年度の完成を目指し建設を進めている東急不動産の「(仮称)道玄坂一丁目計画」に初適用した。
道玄坂一丁目計画のプロジェクトは、再生産可能な循環資源である木材を大量に使用する木造建築物などの先導事例を国土交通省が選定する「令和2年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されている。
狭小地でのハイブリッド木造高層ビルの“プロトタイプ”
近年、公共建築物のみならず民間の都市型建築物にも木造のニーズが増加し始めている中、前田建設工業は、都市型木造を拡大する要素技術の一環で、木と鉄を融合させた耐震システム「木鋼組子」を開発した。また、耐震要素に木を使用することで、耐火建築物でも木を現(あらわ)しに適用できることができるデザインと構造を融合した技術。
導入第1弾となる道玄坂一丁目計画は、「渋谷」駅に近接する道玄坂地区に位置する高さ約45メートルのテナントオフィスビル(延べ床面積約1400平方メートル)。スリムな形状と角地という特性で、2面のファサードに木鋼組子を配し、賑(にぎ)わいの中心地に木の温かみを与える建築としている。上階の柱梁に木質ハイブリッド集成材を使用し、建物内外から木材の温もりを感じられるようにしている。これまでも、S造の建築に木製の構造壁を組み込む試みはあったが、今回採用する木鋼組子は、一般的な木質材料による木製ブレースで、高い靭性を確保しつつ実用性を向上させていることが評価されて採用に至った。
前田建設工業では、本プロジェクトを狭小地でのハイブリッド木造高層オフィスビルの“プロトタイプ”と位置付けることで、都心での木材利用の普及促進を図っていくとしている。
戦後の拡大造林で植林された人工林は、利用期を迎えているが、一方で林業従事者の減少など森林・林業にかかわる社会課題が多く存在している。2019年に創業100周年を迎えた前田建設工業は、次の100年に向け、総合建設業から総合インフラサービス企業への大きな変革を掲げており、その中で森林もまた重要な社会インフラの一つと捉え、森林・林業との関わりを木材資源総合活用事業として推進している。「伐って、使って、植えて、育てる」という森林の持続的な循環で、多様なパートナーとともに価値を創り、社会に実装する活動を行っており、最終的にはSDGsの目標達成につなげていくとしている。
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