【独占取材】日立ビルシステム 光冨新社長「コロナ禍は戦略を見直す好機。ITの付加価値で差別化を」:経営トップに聞く(3/3 ページ)
日立のビルシステム事業を統べる新社長に光冨眞哉氏が就任した。いまだ続くコロナ禍の副産物としてリモートワークやテレワークが急速に社会全体で普及したことで、オフィスビルやワークプレースなど働く空間そのものの価値観が変わる転換点に差し掛かっている。これまでとは全く異なる社会変革に、エレベーターやエスカレーターを主力とする同社のビルシステム事業がどのように応え、ニューノーマル時代で勝ち残っていくのか。新たな舵取りを担う、光冨新社長への独占インタビューから探った。
コロナ禍でタッチレスソリューションの提供開始
光冨社長 横ばいにある国内市場は、コスト構造改革を断行し、製品競争力の強化や昇降機とビルソリューションを複合させた提案の拡大、グループ内での連携によるスマートビル事業への挑戦をしていく。新型コロナウイルス感染症の拡大で、不要不急の工事は先送りになり、既存の設備を使い続けるために保守が重視されるようになるはず。いずれにしても、インキュベーションが必要な時機にあり、ITやIoTでビル設備に付加価値を付け、需要を喚起していかなくてはならない。
――日立ビルシステム社内での新型コロナウイルス対策
光冨社長 コロナ禍にあって、社外でのフィールド業務を行うのが困難な状況にありながら、当社の従業員は、基幹業務であるエレベーターやエスカレーターの保守・点検サービスを継続し、社会のライフラインを守るために日々奮闘してもらっている。フィールドエンジニアを守るため、マスクや消毒液をグローバルで調達して配布している他、働く環境の整備・改善を進めている。具体的には、ロケーションフリーの柔軟な働き方の実現に向けて、テレワーク環境を整えるとともに、紙やハンコ依存からの脱却やジョブ型の人材マネジメントへの移行に着手している。
対外的には、社内に新型コロナウイルス対策の専任チームを組織し、非接触での日常生活を実現するビル・マンション向けタッチレスソリューションの提供を2020年4月に始め、6月にも第2弾を発表するなど順次メニューを拡充している。同時に、コロナ禍での要望を顧客に聞き取りながら、新しい技術・製品・サービスでの商談を進めている。これからは、1社だけでは限界があるため、ビルオーナーやマンション管理組合、または異業種と組み、互いにWin-Winとなる関係性を築く「Co-Creation(コ・クリエーション、協創)」の取り組みがキーワードになる。
――ニューノーマル時代のスマートビル実現を目指して
光冨社長 Co-Creationによる開発の方向性は、ニーズをくみ取ったEV/ESの次世代モデルは当然のこととして、IT事業部門など日立全社のリソースを用い、メンテナンスサービスのさらなるIT化、コネクテッドされたビル設備から集まってくるビッグデータを解析して故障予知などを行うAIのアルゴリズム構築、さらにタッチレスなど新技術のアジャイル開発などを進め、ビルやマンションの設備を最適化することで“スマートビル”を実現させていきたい。
また、EV/ESは、世に登場してからかなりの年月を経ており、これからパラダイムシフトが起きにくい製品ではあるが、ITやIoTによるサービスを加えることで、ライフサイクル全般での関わりを強化していきたい。全国のどこかで、台風や地震といった自然災害が発生しても、対策本部をすぐに立ち上げ、全国各地の300拠点からフィールドエンジニアを急行させ、復旧にあたれる体制を敷いている。ライフラインを扱う企業として、顧客の信頼を得るために愚直に日々研さんを重ねていくことが何よりも重要だ。
新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、別の見方をすると、事業戦略をリフレッシュする良い機会になったとも言い換えられる。従来の働き方とビジネスモデルを棚卸して再構築し、非接触などの新たな社会ニーズや顧客が直面している課題に素早く応じ、ニューノーマルに対応したスマートビルを実現する製品サービスを形にして、激しい市場競争に勝ち残っていかねばならない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- EV/ES:日立の世界一高い“288.8m”エレベーター試験塔、中国・広州市で完成
日立の中国現地法人「日立電梯」は、広州市の研究開発拠点に、世界最高クラスの高さを誇るエレベーター試験塔を建設した。新設する試験塔は、世界最大のエレベーター市場が形成されている中国での開発力を高め、同国内での地盤を固めるとともに、日立ビルシステムの2020年度事業戦略でターゲットと定めるアジア・中東圏でシェアを拡大させることが狙い。 - 次世代のスマートビルサービス:「目指すはアジア・中東でのシェア確立。カギは新IoTダッシュボード」、日立ビルシステムの事業展望を聞く
日立ビルシステムは、事業の柱であるビルシステム事業で、日立のIoTプラットフォーム「Lumada(ルマーダ)」をコアに据えた新規サービスの開発に力を入れている。これまで売り上げの大半を占めていたエレベーター(EV)やエスカレーター(ES)の製造販売と保守点検だけにとどまらず、ビル設備の領域でも事業を拡大させ、昇降機とビルサービスの両輪でグローバル市場でのシェア獲得をうかがう。 - VR:日立が昇降機エンジニア向けにVR教育、国内外との遠隔教育も
日立と日立ビルシステムは、エレベーターの保守・メンテナンスを行うエンジニアを対象に、独自のVR教育システムを開発した。これまで日立はビル設備の販売やアフターサービスで、アジア市場に進出し、海外にもエンジニア育成の拠点を開設してきたが、受け入れ人数の増加や教育メニューの拡充を図る目的でVR技術を活用するに至った。 - 国内初ボタン操作不要の“顔認識”エレベーター、次世代オフィスビル「新橋M-SQUARE Bright」が竣工
日本初の顔認証でエレベーターを自動で呼び、行き先階に自動で止まる機能を備えたオフィスビル「新橋M-SQUARE Bright(エムスクエア ブライト)」が竣工した。このビルには、ICT技術を活用したトイレの空き状況確認システムやアクリル系特殊フィルムとプロジェクターを組み合わせた空間演出など、次世代のビル機能を多数採用し、実証実験の場となっている。 - BAS:入口から執務室まで“3密軽減”と“非接触”を実現、日立が顔認証とEVを連携した新サービス
日立製作所と日立ビルシステムは、ビルやマンションなどで、エントランスから、エレベーター、執務室などの専有スペースまで、非接触で移動できる“タッチレス”ソリューションを開発した。 - ロボット:日本郵便が本社ビルで、日立製エレベーターと連動した配送ロボの実証
日本郵便は日立ビルシステムや日立製作所と共同で、郵便配送ロボットの実証実験を東京・大手町の本社ビルで行った。今回のテストでは、ロボットが自律走行で移動しながら、エレベーターと連携をとりつつ、人や障害物を適切に回避して目的地まで配達できることが確認された。 - 産業動向:建設会社や行政が新型コロナウイルスへの対策を発表、テレワークや消毒液設置などを推奨
国内外で猛威をふるう新型コロナウイルスが建設業界にも影響を及ぼしている。現状での大手建設会社や自治体の関連部署が発表した新型コロナウイルスへの対応策をまとめた。