【第2回】不動産業界のDXは、不動産業務支援の分野へ:急成長を遂げる不動産テック市場の行方(2)(2/2 ページ)
前回は、戦後から消費者向け不動産ポータルサイトが誕生するまで、不動産業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)の歴史を振り返りました。不動産業界のデジタル変革は、不動産の情報流通から不動産業務の支援へと広がっていったことが、お分かりいただけたことかと思います。第2回は、近年注目を集めている不動産テック市場の初期から現在までを振り返ります。
入居申し込み時に書類不備を確認する手間を解消
とくに近年、不動産業界に浸透し始めているのは、オンライン入居申し込みシステムです。賃貸物件の入居申し込みでは、不動産管理会社ごとに書式が異なる入居申し込み書に、入居希望者が手書きで記入・捺印する必要があります。その書類を不動産仲介会社がチェック、不備がある場合は入居希望者に確認を取り、不動産管理会社に郵送またはFAXしています。
FAXをすると文字がつぶれてしまうこともあるため、不動産管理会社が不動産仲介会社や入居希望者へ再度確認することも少なくありません。その後、家賃債務保証会社を利用する場合には、審査書類も郵送/FAXするなど、複数社で書類のやりとりが多く発生しています。
このような手続きをオンライン化し一気通貫で行えるようにするのが、オンライン入居申し込みシステムです。アットホームでも2019年8月から「スマート申込」というサービスを提供しています。
■スマートになった住まい探し
アナログといわれる不動産業務において、ITツールを導入することで、不動産会社は書類の不備確認や郵送と電話の手間・コストなどが軽減でき、業務効率化を図れる他、残業時間の削減など働き方改革にもつながります。
さらに、重説をオンライン化することで、これまで土日に集中していた重説を平日に行えるようになるなど、業務の平準化や接客・オーナー対応などのコア業務への集中が可能になりました。
一方、消費者にとっても書類に記入・捺印する手間が省け、不動産会社への訪問は必要最小限で住まいを契約できることに加えて、時間や場所を選ばず都合の良いタイミングで手続きが進められるなど、不動産会社がITツールを導入することでもたらされるメリットが多く、顧客満足度の向上を目的に導入する不動産会社も増えてきています。
消費者からすると、日常的に利用するスーパーやコンビニ、アパレル、美容院などとは違い、人生で何度も住み替えをすることはあまりなく、不動産を契約する機会は限られています。そのため、不動産業界は「もっと便利になってほしい」という消費者のニーズが高まりにくい市場とされてきましたが、近年は不動産テック市場の注目度アップとともに、利便性に対する消費者のニーズも高まっているようです。
アットホームが2019年6月28日〜7月3日、過去2年以内に賃貸契約をして1人暮らしをしている全国の18〜29歳の社会人1058人を対象に実施したインターネット調査によれば、「入居申し込みや契約に必要な書類を手書きで書くのが面倒だった」と回答した人は69.8%、「契約のためだけに不動産会社に足を運ぶのが面倒だった」と回答した人は72.0%と、大半の人が住まい探しで利便性の向上を望んでいることが明らかになりました。
■非対面・非接触での住まい探しも可能に
2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が流行したことで、不動産業界でも新たな変化が求められています。
流行前は働き方改革を目的に不動産テックを導入する不動産会社が多かったようですが、新型コロナウイルス流行後は非対面・非接触でのコミュニケーションのニーズが高まったことに伴い、郵送やFAXに依存していた業務そのものを見直し、不動産テックの採用を検討する不動産会社も増えました。withコロナ時代におけるオンライン上での新しい住まい探しを、不動産テックが実現しているといえるのではないでしょうか。
次回は、withコロナ時代における不動産テックの状況や課題、不動産業界の未来について考察していきます。
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