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【新連載】サステナビリティと循環型社会形成は会計・税務では不可能!建設業の打開策を説く建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法(1)(2/2 ページ)

本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。

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建物の減価償却で起きる問題点

 それでは、会計学で建物の大規模修繕工事が適正に処理できない理由を概略的に説明しよう。

 建物の会計処理は、研究者(会計学・税法)も経営者も減価償却しておけば、何も問題はないと考えられている。言い換えれば、減価償却に限界があることを知らないのである。大規模修繕工事で床や壁、天井などを新しくした場合、これらの工事金額は、基本的に建物の資産が増加したものと認識され、資本的支出として貸借対照表の建物勘定に加算される。


建物の減価償却には限界がある Photo by Pixabay

 一方、古い床や壁、天井は建物勘定からマイナスしなければならない。厳密に言えば、除去した古い床や壁、天井の未償却残高を建物勘定から減額し、損益計算書の特別損失に計上しなければならない。この会計処理を「一部除却(いちぶじょきゃく)」という。つまり、減価償却だけでは、対応できないことが理解できるだろう。

 実は、一部除却は会計学(財務会計学・管理会計学)の教科書はもとより、専門書でも深く研究されてこなかった領域である。原因は、建物の一部除却は建物工事内訳書を分解して会計処理するものであるが、この建物工事内訳書は会計・税務の実務を行わないと決して出会うことのない代物のため、学術の世界では問題視されてこなかったと考えられる。

 ましてや、建物工事内訳書は工学部建築学科でも授業科目として存在しないため、なおさら会計学でも研究対象にすることは難しかったのであろう。その結果、会計学では一部除却は重要視されてこなかった。

 初級簿記の学習では、天災や火災などの事故によって、固定資産の一部が消滅した場合には、消滅した一部の金額だけ当該資産の簿価を切り下げる必要性があるという考え方がある。それにもかかわらず、計画的に実施される大規模修繕工事における簿価の切り下げについては全く研究されてこなかったのである。


一部除却できないと、架空資産が発生し、粉飾決算とみなされる Photo by Pixabay

 一部除却できないと、貸借対照表の建物勘定に架空資産が発生することになり、いわゆる粉飾決算となる。架空資産が生じると、結果的に不必要な法人税などを納めることになる。これは株主から運用を委託された資金を不必要な税金の支払いに充当することになるため、株主代表訴訟になってもおかしくない大問題である。

 建物は、償却資産の中で最も高額な資産と言えよう。従って大規模修繕工事の額も高額となり、架空資産が発生し、粉飾の額も高額になるため由々しき問題となる。持続可能な社会を考えたときに、循環型社会形成に重要な大規模修繕工事の会計処理は、多くの企業において、適正な会計処理ができていないとも置き換えられる。これはもはや、会計・税務だけの問題ではなく、社会的問題と言っても過言ではない。

 次回は、大規模修繕工事の際、一部除却できない理由を工事内訳書の視点から論じる。

著者Profile

土屋 清人/Kiyoto Tsuchiya

千葉商科大学 商経学部 専任講師。千葉商科大学大学院 商学研究科 兼担。千葉商科大学会計大学院 兼担。博士(政策研究)。

租税訴訟で納税者の権利を守ることを目的とした、日弁連や東京三会らによって構成される租税訴訟学会では、常任理事を務める。これまでに「企業会計」「税務弘報」といった論文を多数作成しており、「建物の架空資産と工事内訳書との関連性」という論文では日本経営管理協会 協会賞を受賞。

主な著書は、「持続可能な建物価格戦略」(2020/中央経済社)、「建物の一部除却会計論」(2015/中央経済社)、「地震リスク対策 建物の耐震改修・除却法」(2009/共著・中央経済社)など。

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