【新連載】サステナビリティと循環型社会形成は会計・税務では不可能!建設業の打開策を説く:建物の大規模修繕工事に対応できない会計学と税法(1)(1/2 ページ)
本連載では、建物の大規模修繕工事で生じる会計学や税法上の問題点やその解決策を千葉商科大学 専任講師 土屋清人氏(租税訴訟学会 常任理事)が分かりやすくレクチャーする。
持続可能な開発目標(SDGs)とは、2015年の国連サミットで全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2030年までの国際目標である。持続可能な社会を考えたとき、循環型社会が大変重要な項目であることに異論を唱える者は少ないであろう。
大規模修繕工事では不必要な税金が発生する
循環型社会とは、モノを大切にする社会である。ライフサイクルの視点で持続可能な建物(RC造など)を考える際、大規模修繕工事は必要不可欠な工事であることは周知の通りである。的確な大規模修繕工事が実施されているからこそ、我が国のビルディングの多くは、ピンシャンとしているのである。
しかし、この工事が適正に会計処理され、公正な決算報告書が作成されて、不必要な税金が発生しない税務申告書が提出されているかと言えば、答えはNOである。なぜならば、会計学や税法においては、建物の大規模修繕工事は想定されていないからである。従って、政府主導のもとにSDGsや循環型社会形成が叫ばれようが、現時点では会計や税務の関係上、建物の大規模修繕工事は、それらの実現は不可能であると言っても過言ではない。
そればかりか、基本的に建物は大規模修繕工事をすればするほど、法人税などを多く納めなければならない税制になってしまっている。「そんな大事なこと国会でも論争されていないではないか!」と言う方もいらっしゃるだろう。しかし税法は、法人税法の大本の法律を変える際には国会決議が必要となるが、政令・省令を変更する場合は、その限りではない。従って、大増税は容易に行えるのである。大増税が仕組まれていることを知らずして、政府主導のもと、SDGsや循環型社会形成が声高に叫ばれているのだから、なんとも日本とは魔訶不思議な国である。
税制改正は、建設会社の方々にとっては、ある意味で営業妨害的な増税とも言えるだろう。では、大増税に対して何らかの打開策はあるのか?答えはYESである。打開策とは、建物価格を会計思考によってデザインする「価格構造メソッド」というものである。このメソッドは3つの利点を有する。第1に建設会社のクライアントは喜ぶ、第2に建設会社がCSR(企業の社会的責任)を本業を通して実行することが可能となる。第3に特筆すべき点は、「価格構造メソッド」には設備投資が必要ないという点である※1。ここまでの話を簡略図で示すと下図のようになる。
※1 詳細は拙著「持続可能な建物価格戦略」(2020/中央経済社)を参照
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