「3倍速い」大林組の床版取り替え新工法、交通規制の期間短縮が実現:新工法
大林組は、プレキャスト床版を用いて、従来よりも3倍速くコンクリート橋の床版を取り替える「キャップスラブ」工法を開発し、中央自動車道のリニューアル工事に適用した。
大林組は、プレキャスト床版を用いてコンクリート橋の床版を取り替える「キャップスラブ」工法を開発した。2020年3月6日に、中日本高速道路発注の中央自動車道・上田川橋(下り線)の床版取り替え工事で採用し、施工を完了したことを明らかにした。
従来の工法よりも3倍の施工スピードで床版取り替え
高速道路のリニューアル工事で、車両の荷重を直接支える床版を取り替えるには、車両の通行を規制する必要があるため、交通規制の期間を短縮させる工法が求められている。とくにコンクリート橋のうち、プレストレストコンクリート構造の主桁と床版を一体化させたPC合成桁の床版を更新するには、長期間の交通規制を敷いていた。
新工法のキャップスラブは、主桁を覆う特殊な形状のプレキャスト床版。ずれ止め用のアンカー鉄筋は、既設床版を撤去した後の主桁上に施工し、新しいプレキャスト床版を設置した後に、床版と主桁の隙間をモルタルで充填するだけで一体化させる。
従来工法では、既設の主桁から突出している鉄筋を再利用するため、ウォータージェット工法でコンクリートのみを除去し、狭あいな空間で支保工を組み立て、型枠工と鉄筋工の後にコンクリートを打ち込んでいた。キャップスラブでは、主桁からの突出鉄筋を全て切断撤去するため、短期間で既設床版を撤去。さらに、プレキャスト部材による架設工法を採用し、スピーディーに床版を構築できるため、従来の工法に比べて3倍の施工スピードで、床版取り替え工事が完了する。
海外ではPC合成桁に、プレキャスト床版が採用されているがフラットな形状をしている。国内のPC合成桁に適用する場合には、強度を高めるために、主桁との接合部を厚くしなければならないため、路面の高さが必然的に上がる。そのため、工事対象箇所の前後舗装をかさ上げして、段差を解消するすり付け工事が不可欠なため、これまで国内では採用されていなかった。
その点、キャップスラブでは、キャップのような形状のプレキャスト床版の下面を主桁の上面を覆うように設置することで、床版の厚さを抑える。路面のすり付け工事が不要となり、コストを抑えた取り替え工事が可能になった。
また、施工品質の観点でも、管理された工場で製作するため、品質が安定し、コンクリートにとって理想的な養生を施せるため、より緻密な床版を提供できるようになった。さらに、工場製品は、PC鋼材をあらかじめ所定の力・位置に緊張しておき、プレテンション方式で容易にプレストレストコンクリート構造とすることができるため、床版の疲労耐久性も高めることにつながる。
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