ドローンと運航管理システムを世界展開、Terra Droneが挑む「低空域経済圏」:ドローン(2/2 ページ)
Terra Droneは、独自技術で低価格化したドローンレーザースキャナーや屋内点検用ドローンを武器に、建設や社会インフラの現場で導入を拡大。運航管理システムも欧米を中心に普及が進む。「低空域経済圏のグローバルプラットフォーマー」を目指すTerra Droneに、ドローンが建設現場にもたらす価値や活用の現状、そして今後の展望を聞いた。
点検分野では屋内点検用ドローン開発
近年は点検領域にも注力している。国内では橋梁(きょうりょう)、トンネル、下水道といった社会インフラの老朽化が進む一方で、担い手の高齢化や人手不足が深刻化している。こうした課題に対応するため、テラドローンはGPSが使用できない閉鎖空間でも飛行可能な屋内点検用ドローン「Terra Xross 1」を開発し、2025年1月発売した。ビジュアルセンサーとLiDARを搭載することで、屋内暗所/粉塵環境でも安定した飛行性能を実現。さらに同じ用途の従来機種と比較して3分の1程度の低価格で提供する。
機体の販売と点検サービスに加え、さらに特別なアタッチメントを搭載し、屋内タンクの腐食/板厚検査を行う「超音波点検」サービスも展開している。一例として、従来2週間程度を要していたプラント内のタンク点検が2〜3日程度で完了。足場が不要になることで大幅な工数削減が可能だという。
「最近も下水道管の点検作業中に死亡事故が発生するなど、危険が伴う点検現場は多い。ドローンで代替することは、安全性の面でも大きな意味がある」と徳重氏は強調する。
テラドローンはハードウェアに加え、飛行計画作成から測量/点検データ解析までワンストップで行えるプラットフォーム「Terra Cloud」も展開。取得データをクラウドに蓄積し、共有できる仕組みを整えた。ドローンを「飛ばす」だけでなく、データを進捗管理など業務活用に結び付けることで「建設DX」を後押ししている。
UTMによる空のインフラ構築へ
もう1つの柱のUTMは、複数事業者のドローンや空飛ぶクルマが同じ空域を飛行する際に、経路や高度を調整して衝突を防ぐ空の交通管制システムだ。ドローンは物流や災害対応、建設資材搬送など幅広い用途での利用が見込まれている。このためドローンによる空域混雑化は今後進む見通しで、UTMは社会実装のために不可欠な基盤だ。既にEUは2023年、全27加盟国のUTM導入義務化を決定。米国では空港周辺の空域で利用が義務化されている。国内でも国土交通省航空局がUTMの導入検討を進めている。
テラドローンは早くからUTMの将来性に着目し、創業半年後にベルギーの「Unifly(ユニフライ)」へ出資、2023年に子会社化した。この決断について徳重氏は「航空業界出身の創業者が持つ現場の知見に加え、『事故を絶対に起こしてはいけない』という強い安全意識が出資の決め手だった」と説明する。ユニフライは欧米を中心に公的機関とも連携しながら事業を拡大している。また、国内ではテラドローン独自開発のUTMを提供。さらに、2024年3月にはUTMで米国内シェアトップのAloft Technologies(アロフト) に出資し、2025年9月には完全子会社化を発表。
テラドローングループのUTMは、日本や欧米を中心に世界10カ国で採用されている。UTMは市場の成長性の高さに加え、ライセンス料やフライトごとの従量課金モデルで継続的収益が見込める点も強みだ。
ドローンがもたらす「顧客価値」
世界のドローン市場では、中国DJI製ドローンが7割のシェアを占めるといわれている。徳重氏は「当社は測量分野でドローン本体の開発には踏み込んでこなかった。後悔もあるが、同時に新たな成長機会ともとらえている。地政学リスクやセキュリティ懸念から代替需要も生まれている」と語り、今後はドローン本体の事業展開も視野に入れていると明かした。
取材の中で徳重氏が繰り返し口にしたのが「顧客価値」という言葉だ。「優れた新技術でも顧客価値がなければ意味がない。ドローン活用には建設現場の働き方を変えるインパクトがあり現場の『必需品』になる可能性がある」と説明。「生産性や安全性向上に加え、新しい技術に関心の高い若手人材の採用にもつながる」とその価値について語った。
徳重氏は現在の事業規模について「まだヒヨコのレベル。目標の10%程度だ」と表現し、「日本では発展途上のドローンサービスだが、海外ではフードデリバリーなどで実用化されている地域もある。日本特有の課題もあるが、世界の潮流を見据え、確実に機会を捉えて行きたい」と展望を語った。
テラドローンは社会の持続可能な発展に向けて、引き続き、ドローンや空飛ぶクルマが飛び交う「低空域経済圏」のグローバルプラットフォーマーを目指していく。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
メンテナンス・レジリエンスTOKYO2025:1億200万画素で近接目視超え! AI×ドローンも活用する富士フイルムのインフラ点検DX
社会インフラの老朽化と点検作業員不足が深刻化する中、富士フイルムはAIによる自動ひび割れ検出「ひびみっけ」、省人化を実現する「トンネル点検DXソリューション」、そして1億200万画素カメラ搭載ドローン――3つの技術で維持管理の常識を塗り替えようとしている。
ロボット:悪路や斜面も走破するマイクロ重機を12月発売、エバーブルーテクノロジーズ
エバーブルーテクノロジーズは、除雪ドローンの遠隔操縦技術を応用した小型無人建設機「UGV-F11RC2」を2025年12月に発売する。ガソリンやオイル不要の電動駆動のため、静音性が高くCO2排出ゼロながら、不整地や斜面も走行する。法面整備や資材搬送、危険区域の現状確認などでの活用が期待される。
第7回 国際 建設・測量展:南海トラフ地震にどう備えるか? 国の防災DXと企業のBCP作成の要点を内閣府が解説
南海トラフ地震や首都直下地震など国難級の災害が迫る中、国は防災DXや官民連携を軸に新たな対策を進めている。CSPI-EXPO2025で内閣府の吉田和史氏が講演し、能登半島地震の教訓や南海トラフの被害想定を踏まえ、新技術と自治体をマッチングさせるプラットフォームや創設準備が進む「防災庁」などの最新動向を紹介した。民間企業には、BCP策定とサプライチェーン全体を見据えた備えを呼びかけた。
AI:インフラ設備点検向け画像異常検知AI開発 過検知を従来比半減、東芝
東芝は、インフラ/プラント設備の点検業務向けの画像異常検知AIを開発した。ユーザーの曖昧な言語指示をAIが最適化し、正常画像との組み合わせで解析することで、過検知を従来比で約半分に抑制できる。
第7回 国際 建設・測量展:7年ぶりに進化した新世代ショベルと無人化施工で、コマツが未来の建設現場を発信
コマツとその子会社EARTHBRAINはCSPI-EXPO2025で、「未来の建設現場」をテーマに最新技術を披露した。7年ぶりにフルモデルチェンジした新世代ショベル「PC200i-12」の国内初公開に加え、無人化施工をデモンストレーション。省人化と安全性向上を両立するビジョンを示し、業界の社会課題解決に向けた強いメッセージを発信した。
デジタルツイン:工事現場を「リアルタイム3Dスキャン」で可視化、施工管理業務を効率化 鹿島建設
鹿島建設と日立産業制御ソリューションズは、現場状況の3Dモデルをリアルタイムで更新/確認できるシステム「リアルタイム3Dスキャン」を開発した。国土交通省発注のトンネル工事に導入し、施工管理業務が大幅に効率化できることを確認した。

