テナント型オフィスビル/ワークプレースのNEBs評価と算定の実例を紹介:NTTファシリティーズの省エネビル指標「NEBs」(3)(2/2 ページ)
本連載は、ZEBをはじめとする省エネ建築物の副次的効果の評価手法「NEBs(Non-Energy Benefits)」について紹介しています。第3回では、テナント型オフィスビルやワークプレースでのNEBs効果の考え方や評価事例について、アーバンネット仙台中央ビルとグランパークタワーの実例を参考に解説します。
ビルオーナー/テナント企業のそれぞれに発現するNEBsとEBの効果
NEBsとEBを合わせた効果額はビル全体で2.4億円/年、そのうちオフィスに入居するテナントへの効果は2.2億円/年、オーナーへの効果は0.2億円/年となりました。なお、テナントへの効果は、一部テナントでの算定結果を他テナントにも適用と調整をしながら、オフィス専有部全体へ拡大推計することにより算定しています。
自社所有ビル向けNEBsには無かった新たな効果として、テナント企業が利用できるワーカーズラウンジや共用の会議室、屋上庭園などに加え、スタートアップ企業のイノベーションを促進する施設など、テナント型オフィスビルならではの多様な用途の施設活用で、各企業のコミュニケーションやイノベーションの促進などのシナジー効果が発現していると算出されました。
他にも、充実したアメニティー施設を共有することで、自社ビルと比較して費用を抑えながらも、健康増進や生産性向上効果を得られるなど、テナント企業のNEBsがもたらされていると推計されました。さらに、企業のブランディングや地域貢献につながるベネフィットがオーナーに発現していると想定されます。
上記算定額に加え、オーナーへの効果のうち「不動産価値の向上」では、売却時における不動産評価額の増大などのさらなる追加が見込まれます。

【ビルオーナー企業/テナント企業に発現するNEBsとEBの効果】 出典:NTTファシリティーズプレスリリース「アーバンネット仙台中央ビル」にて省エネ・脱炭素ビルがもたらすビルオーナー・テナント双方のメリットを算定」
グランパークタワーのワークプレース改修で、NEBs項目を用いた効果検証
NTTファシリティーズでは、東京都港区のグランパークタワー内NTTファシリティーズオフィスで、ワークプレース改修(2025年完成)を実施し、改修による執務者の健康や知的生産性に対する効果を検証するため、NEBs指標による効果の定量化を行いました。
グランパークタワーのワークプレース改修は、オフィスやワークプレースに求められる機能や要件が変化する中、社員の健康増進や知的生産性を向上させながら、「新たな価値を提供する場」としてのワークプレースの在り方を見直し、アクティビティー分析や出社率データに基づき自社オフィスを最適化しました。通常の執務エリアとして使用していた本社内の一部フロアを共創スペースとしたことが特長です。このような取り組みの効果を評価するにあたり、以下の評価項目で各種アンケートや単純作業/知的生産テストを実施し、改修後のワークプレース移転前後の結果を評価しました。
従来のNEBsロジックに、検証結果を加味し、用途別の面積比率に応じた按分や出社率を考慮することで、グランパークタワーのワークプレース改修によるNEBs効果額をより精緻に推計しました。
今後は引き続き評価項目や計測方法の見直し、他建物での検証を踏まえた評価手法を更新し、ワークプレースでのNEBs算定ロジックの精緻化を目指します。
まとめ
本連載では、ZEBをはじめとする省エネ建築物の副次的効果の評価手法の「NEBs」について解説しました。第1回ではNEBs指標の考え方や評価方法、第2回では実際の事務所や庁舎でのNEBs効果の発現状況や評価事例を紹介しました。
最終回となる本稿では、テナント型オフィスビルの省エネ改修においてビルオーナー/テナント企業のそれぞれに発現する効果を明らかにすべく、双方にもたらされるNEBs効果の考え方やロジックに触れました。また、実物件での算定事例を交え、テナント型オフィスビルやワークプレースにNEBsを活用した具体的な算定イメージを説明しました。
NTTファシリティーズは今後も引き続き、テナントやオーナー双方への価値算定ロジックの精度向上とともに、他用途の建物へのNEBsロジックの拡張を行うことで、省エネ建築物の普及拡大や環境配慮施策への投資判断を後押しします。こうした取り組みを通じ、ZEBをはじめとする省エネ建築物の採用促進を通じたカーボンニュートラルの貢献はもちろん、従業員のウェルビーイングの向上、Scope3のCO2排出量削減にも貢献することを目指し、幅広いステークホルダーと連携して、地域社会全体での脱炭素化を推進していきます。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ダイダンと八洲建設のZEB化ビルで分かった副次的効果 「NEBs」評価の実践例
本連載は、ZEBをはじめとする省エネ建築物の副次的効果の評価手法「NEBs(Non-Energy Benefits)」について紹介しています。第1回では、NTTファシリティーズとデロイト トーマツがNEBs指標を開発した背景とその考え方、評価方法について解説しました。第2回となる本稿では、実際の事務所や庁舎におけるNEBs効果の発現状況や評価事例について解説します。ロジスティクス:名古屋に延べ2.3万m2の物流施設完成、大林組が開発 コーポレートPPAで再エネ活用
大林組が愛知県名古屋市で開発を進めていた物流施設「OAK LOGISTICS CENTER 名古屋」が、2025年5月31日に竣工した。屋上に設置した太陽光発電設備から電力の供給を受け、需要の約8割を賄うことで、年間約86トンのCO2排出量を削減する。プロジェクト:東京駅直結の新「八重洲ダイビル」完成 旧ビルの意匠と緑を継承、環境性能認証も取得
ダイビルが東京都中央区で建て替えを進めていた「八重洲ダイビル」が完成した。東京駅八重洲地下街直結の立地に、旧ビルの意匠と緑を継承しつつ、環境/ウェルネス性能認証で最高評価を取得した。電子ブックレット(BUILT):施設管理DX 清掃/点検/監視が変わる(2025年1〜6月)
ウェブサイトに掲載した記事を印刷しても読みやすいPDF形式の「電子ブックレット」にまとめました。無料のBUILT読者会員に登録することで、ダウンロードすることができます。今回のブックレットでは、2025年1〜6月にBUILTで公開した「施設管理DX」の注目ニュースを集めました。カーボンニュートラル:建設/不動産分野の温室効果ガス「削減貢献量」、算定手法の素案を策定 日建設計
日建設計は、建設/不動産分野の温室効果ガス削減貢献量の算定方法に関する素案をまとめ、関係省庁や業界関係者に提案した。今後、多様なステークホルダーの意見を反映しながら、業界標準として機能し得るガイドラインへの発展を目指す。「省エネ計算の専門家」が解説する建築物省エネ動向(4):旧耐震物件で環境性能認証の取得は難しい? 図面がない築50年のホテルでもBELS認定
本連載では、環境・省エネルギー計算センター 代表取締役の尾熨斗啓介氏が、省エネ基準適合義務化による影響と対応策、建築物の環境認証などをテーマに執筆。第4回は、既存/築古建築物での環境性能の認証を取得する際の注意点や高い評価を受けるためのポイントなどを解説します。