労働人口の減少が迫る建設業界で広がる映像DX【セーフィー解説】:建設DX研究所と探る「建設DX最前線」(3)(2/2 ページ)
建設DXの推進を目的に建設テック企業が中心となり、2023年1月に発足した任意団体「建設DX研究所」。本連載では、建設DX研究所のメンバー各社が取り組む、建設DXの事例や技術開発について詳しく解説していきます。今回は、セーフィーが提供する映像による建設DXについて紹介します。
建設業界のDXと2024年問題とコロナ禍
まずセーフィーという企業についてです。セーフィーは2014年に創業した10年目の会社で、カメラ映像をクラウド化して、活用できる映像プラットフォームを提供しています。クラウド録画サービス「Safie(セーフィー)」を軸に、映像によるDXを推進し、各業界の課題解決に貢献する事業を展開しています。
これまで、製造業、飲食業、小売業など、幅広い業界に向けて映像を起点としたソリューションで業界固有の課題を解決してきました。建設業界でも、屋外向けクラウドカメラ「Safie GO(セーフィー ゴー)」シリーズ、ウェアラブルクラウドカメラ「Safie Pocket(セーフィー ポケット)」シリーズを開発し、現場ごとに合致するソリューションを提供しています。具体的には、いつでもどこでも映像を経由し、現場を確認/共有できることで、施工管理の業務効率化による人件費/交通費の削減、現場の安全性担保に寄与しています。各業界を俯瞰すると、建設業界は近年、DXに積極的に取り組んでいる印象です。
建設業界のDXの動きを加速させた背景には、「2024年問題」が大きく影響しています。2019年4月に施行された「働き方改革関連法」ですが、建設業では短期間での労働環境改善が難しいという特性を考慮し、5年間の猶予期間を経て、2024年4月から適用されました。時間外労働の上限規制などが導入されたことで、これまで長時間労働が常態化していた業界では、労働時間の短縮と生産性向上の両立が急務となりました。
また、猶予期間中に発生したコロナ渦によって、「遠隔臨場」が広まったこともDX推進の後押しとなっています。遠隔臨場は、離れた場所から臨場、つまり工事現場の立ち会いを行うことです。国土交通省では、材料確認や段階確認、立会を遠隔で実施することと定義※3しています。主にウェアラブルカメラなどで撮影された映像をリアルタイムで送信し、遠隔から状況確認を行う方法です。現場業務の効率化だけでなく、両手作業の確保、社員教育や技術継承、安全性の向上、事故原因究明なども可能になります。
※3 国土交通省「建設現場における遠隔臨場に関する実施要領(案) 令和4年3月」
さらに、2024年6月には、デジタル庁を中心とした「アナログ規制」の見直しが横断的に行われました。建設業界に関連する「検査/点検/監査」「調査」「巡視/見張」といった項目で、デジタル技術による代替が認められています。目視や常駐の義務付けを緩和する流れの中で、前述の「遠隔臨場」とともに、定点カメラやウェアラブルカメラの映像や音声を用いる「遠隔巡視」にも活用され始めています。遠隔巡視により、移動や作業時間を削減しながら遠隔からリアルタイムに、作業間連絡調整の状況や不安全状態の確認、行動の是正や指導、工事進捗状況の把握が可能になります。
現在、建設現場では、クラウド録画サービスをはじめ、ドローンによる空撮測量、3次元測量機による精密な地形データ取得、ICT(情報通信技術)を活用した建設機械の制御、さらには建設ロボットの導入など、続々と新しい技術が導入され始めています。また、企画・設計段階でも、BIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)や3Dビュワーを活用した3次元モデルによるデータ管理など、従来の2次元図面中心の業務から、より効率的で視覚的な情報共有を可能にする新しい挑戦が始まっています。
DXによる建設業界の今後
現在進行形でDXを進めている建設業界ですが、労働生産性の更なる向上とともに、現場での安全管理の徹底も重要な課題となります。建設現場の規模が大きくなればなるほど、労働災害の発生率は高まり、現場で働く人々が危険にさらされるリスクも増大します。人手不足によって、現場の隅々まで目が届かなくなるという事態を避けるためにも、「いかに安全な建設現場を作れるか」という観点からも重要性が増しています。
安全対策では、遠隔からの現場管理でデジタル技術の活用、業界全体の課題解決に向けたAI技術の応用が進んでいます。現場で収集されたリアルタイムなデータと3次元の仮想空間データを連携させることで、より高度な生産性向上と安全性の確保を目指す段階に入ってきています。
今後はインフラの保守・点検といった領域でも、DX活用が大きく期待されています。昨今の報道でも頻繁に取り上げられているように、道路や上下水道管などの社会インフラは老朽化が進んでおり、その点検範囲も広大なため、従来の人的な点検作業だけでは限界を迎えつつあります。そこで、ドローンやAI画像解析などの活用で、効率的かつ網羅的な点検が可能となり、事故の未然防止や早期発見につなげることが不可欠となっています。
建設DX研究所でも、防災、インフラ整備など、建設に関連するさまざまなDXの施策について、参加企業が持つ技術や事業(ドローン、3次元測量機、ICT建機、建設ロボット、映像ソリューション、業務の効率化システムなど)を軸に、現場や社会が真に求めているものは何かを議論し、新たな価値創造を目指す場を設けていきたいと考えています。
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