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大和ハウスグループがBIM×FMで座談会 研修施設「コトクリエ」で試みた“一気通貫BIM”【BIM×FM第8回】BIM×FMで本格化する建設生産プロセス変革(8)(3/3 ページ)

本連載では、FMとデジタル情報に軸足を置き、建物/施設の運営や維持管理分野でのデジタル情報の活用について、JFMAの「BIM・FM研究部会」に所属する部会員が交代で執筆していく。本稿では、大和ハウスグループの研修施設「みらい価値共創センター」で、「一気通貫BIM」に挑戦したメンバーが、ファシリティマネジメント領域で導入した「BIM-FMシステム」についてディスカッションした座談会をお届けします。

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――今まで出てきた課題をどう解決していきましたか?

河渡 全ての課題を解決できたわけではありませんが、私たちなりにいくつかの改善を進めてきました。まずは蓄積データの見直しです。日常点検のチェックリストでは「異常なし」という情報が大量に記録されていましたが、オーナー目線で考えると「異常がないのは当然」ともいえます。そのため、蓄積するのは「異常あり」の情報に限定し、記録の効率化を図りました。

 また、AIRやEIRが存在しないプロジェクトでも、迷わずに情報整備ができるように、フジタ独自のFM向けBIMモデリングルールを策定しました。維持管理に必要な情報を過不足なく含みつつ、ビュワーの軽快な動作のためにバランスにも配慮しています。

 さらに、こうした改善を取り入れた「BIM-FMシステム スタンダード版」を開発し、初めてBIM-FMシステムの導入を検討する方々にも使いやすい形で提供できるようにしています。

赤尾関 中央監視との連携も、現在は新たなアプローチでの検証を進めています。コトクリエで採用していた方式とは異なる方法を試すことで、作業依頼が大量に発行されるといった課題を回避できるのではないかと期待しています。


筆者提供

〜課題の解決に向けて〜

  • データ蓄積の内容を見直し、効率的な情報管理を実現。
  • AIRやEIRがなくても活用できる独自のBIMモデリングルールを整備。
  • 導入のハードルを下げるため、スタンダード版を開発。
  • 中央監視との連携は、別アプローチでの検証により改善を図っている。

――最後にこれからBIM-FMシステムを導入する方々や業界に向けてのメッセージをお願いします。

西本 BIM-FMシステムに初めて取り組むのであれば、まずは比較的シンプルな建物からスタートするのがよいでしょう。複雑で大規模な建物は、データ量や運用負荷も大きくなり、現場の負担が増します。最初の一歩は、管理のしやすい自社施設からが理想的です。

内田 統合モデルの作成では、BIMやCADソフト間の互換性に課題を感じました。ソフト間の連携性が高まれば、BIM-FMシステムの導入はもっとスムーズに進むと思います。今後の技術の進化に期待しています。

河渡 BIMモデルの軽量化やビュワー、PCの性能向上が進めば、将来は複雑な建物でも快適に運用できるようになるはずです。また、BIM-FMシステムの導入を検討する際には、「何ができるか」ではなく「自社のFMの目的や組織体制」を最初に考えるべきだと感じました。その上で自社に合ったシステムを選んでいくことが重要です。

赤尾関 今後はBIM-FMシステムの費用対効果を定量的に示すことが課題です。また、AIRやEIRの有無がプロジェクトの成否に大きく左右すると今回の経験で実感しました。オーナーの方々には、ぜひプロジェクト初期からライフサイクル全体を見据え、AIRやEIRの作成を検討していただきたい。

小田 現在、日本ではBIMデータの有無が資産評価に直接影響することは少ないですが、これからは稼働実績や保全履歴のエビデンスとして、BIMが活用されるようになる可能性は大いにあります。BIM-FMシステムはまだ発展途上ですが、その価値を実感できる時代はすぐそこまで来ていると感じています。





 BIM-FMシステムと聞くと「何でもできるすごいシステム」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかし、現実には泥臭く地道な作業の積み重ねで、導入や運用には多くの試行錯誤があります。それでもなお、BIMのポテンシャルを信じ、FM業務の未来を切り拓こうとする姿勢こそが、業界全体の前進につながるはずです。読者の方々にも、BIMモデルを活用したファシリティマネジメントという選択肢をぜひ一度検討いただければ幸いです。

著者Profile

赤尾関 剛志/Masamune Akaoseki

フジタ 建築本部 建築統括部 BLC推進部 所属。

2016年に職業能力開発総合大学校(生産電気システム技術科)を卒業後、大手素材メーカーに入社。生産設備のメンテナンスやエンジニアリング業務に従事し、設備管理の現場を通じてファシリティマネジメント(FM)の重要性と課題に向き合う。

2021年からフジタにて、BIMを活用したFMツール「BIM-FMシステム」の構築と導入支援に携わる。維持管理の実務経験を生かし、顧客の視点に立ったFMのDX推進を支援している。

認定ファシリティマネジャー(CFMJ)、エネルギー管理士、第三種電気主任技術者。JFMA「BIM・FM研究部会」会員。

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