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ダイダンと八洲建設のZEB化ビルで分かった副次的効果 「NEBs」評価の実践例NTTファシリティーズの省エネビル指標「NEBs」(2)(2/2 ページ)

本連載は、ZEBをはじめとする省エネ建築物の副次的効果の評価手法である「NEBs」(Non-Energy Benefits)についてご紹介しています。第1回では、NTTファシリティーズとデロイト トーマツがNEBs指標を開発した背景とその考え方、評価方法について解説しました。第2回となる本稿では、実際の事務所や庁舎におけるNEBs効果の発現状況や評価事例について解説します。

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NEBsの算定事例Vol.1 新築〜ダイダン〜

 ダイダンのZEB認証を取得したZEB Ready1棟含む自社オフィス3棟(図5)で、省エネ建築物の“新築”による効果を総合的に定量評価すべく、NEBsを用いて評価しました。3棟は、省エネルギーと快適性向上の両立に取り組んだ建物です。

図5 算定対象としたZEBオフィス3棟(九州支社、四国支店、北海道支店)の外観
図5 算定対象としたZEBオフィス3棟(九州支社、四国支店、北海道支店)の外観 提供:NTTファシリティーズ、デロイト トーマツ

 本取り組みで適用したNEBsの定量化手法は、3ステップで構成されています。STEP1では公開情報(延べ床面積、主な設備などの竣工データベースなど)をもとに算定、STEP2では内部情報(設備の運用時間/エネルギー削減量/メンテナンス頻度などの施設設備に関する情報、職種別の在館者数と在館割合や残業時間/欠勤時間といった従業員に関する情報など)と社員への環境満足度アンケートで算定しました。さらに、STEP3では現地視察し、施設設備の利用状況の確認や従業員へヒアリングを実施し、使用者の生の声を捉え、納得感を確認して精緻化を図りました。

 評価の結果、1200平方メートル程度のオフィスビルで、エネルギー消費量(光熱費)の削減効果は建物全体で2700万円/年、光熱費以外のZEB導入による生産性向上などの効果は建物全体で1億300万円/年と推計されました。エネルギー消費量のみの投資回収年数に比べ、NEBsを含めた投資回収年数は約1/4まで短縮され、ZEB導入の潜在的な効果を適切に算定することで、ZEBに取り組むメリットを定量的に可視化しました(図6、7)。

図6 ダイダンの自社オフィス3棟での総合的な評価のイメージ
図6 ダイダンの自社オフィス3棟での総合的な評価のイメージ 提供:NTTファシリティーズ、デロイト トーマツ
図7 ダイダンの自社オフィス3棟での効果額の内訳(推計)
図7 ダイダンの自社オフィス3棟での効果額の内訳(推計) 提供:NTTファシリティーズ、デロイト トーマツ

NEBsの算定事例Vol.2 改修〜八洲建設〜

 八洲建設の実践例では、愛知県半田市にある本社社屋を対象に、省エネ“改修”による効果を総合的に定量評価すべく、NEBsを用いました(図8)。本社社屋は、東海地域の事務所で初の既存建築物ZEBを取得した事例となっています。

図8 算定対象としたZEB化した本社社屋
図8 算定対象としたZEB化した本社社屋 提供:NTTファシリティーズ、デロイト トーマツ

 検証の結果、1100平方メートル程度のオフィスビルで、エネルギー消費量の削減効果は建物全体で1300万円/年、光熱費以外のZEB導入による生産性向上などの効果は建物全体で1億1900万円/年と推計されました。ZEB 導入による生産性等の効果は光熱費削減効果の約9倍、エネルギー消費量のみの投資回収年数に比べ、NEBsを含めた投資回収年数は約10分の1まで短縮されました(図9、10)。

 検証のための従業員へのアンケートやヒアリングでは、「夏や冬の空調の立ち上がりが良くなったり、窓際の座席の温熱環境が改善したり、ZEB化改修を経て快適に働けるようになりました」などの快適性に関する好評価が多く挙がりました。

図9 八洲建設本社での総合的なZEBの評価のイメージ
図9 八洲建設本社での総合的なZEBの評価のイメージ 提供:NTTファシリティーズ、デロイト トーマツ
図10 八洲建設本社での効果額の内訳(推計)
図10 八洲建設本社での効果額の内訳(推計) 提供:NTTファシリティーズ、デロイト トーマツ

まとめ

 本稿では、ZEB認証取得ビルの副次的な効果の発現状況を確認すべく、国内での民間企業の事務所やビル、自治体の庁舎などを分析した結果、実物件での算定事例、NEBsを活用した評価の具体的なイメージを紹介しました。

 次回の第3回では、「ワークプレース/テナントビルのNEBs評価と算定事例」の解説を予定しています。テナントビルでは、ビルオーナーが投資を行いますが、ベネフィットを主に享受するのはテナント企業のため、なかなかZEB化が進まないという課題があります。そのような課題を抱えるテナントビルでのZEB化を推進すべく、NEBsによるベネフィットの定量化事例を紹介します。

著者Profile

榎木 靖倫/Yasunori Enoki

1994年大阪大学大学院 工学部 建築工学科を修了後、NTTファシリティーズに入社。以来、建築PM・設計・開発CRE(Corporate Real Estate)プロジェクトを数多く経験している。

建築物省エネのZEB設計にも早くから取り組み、2014年環境設備デザイン賞優秀賞(東京ガス磯子スマートハウス)、2018年第7回サステナブル建築賞(エネフィス九州)を受賞。建築計画、事業計画にわたる幅広い知識と経験を有しており、社会課題に対しファシリティソリューションを提供。

一級建築士。

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