能登半島豪雨の被害拡大を受け、大林組が複合災害を再現する実験装置を開発:レジリエンス
大林組は、能登半島地震後の2024年9月に発生した豪雨で土砂災害が拡大した事例などを受け、地震と降雨による複合災害時の地盤状況をシミュレーションする実験装置を開発した。高速道路や鉄道の盛土構造物に加え、斜面、河川堤防、ダムなどを対象に、土砂災害などの被害軽減に有効な新工法を検討する。
大林組は2025年4月24日、地震と降雨が同時発生した際の地盤状況をシミュレーションする実験装置「遠心場(えんしんば)降雨発生システム」を開発し、東京都清瀬市にある大林組技術研究所の遠心模型実験装置に搭載したと発表した。
最大2000mmの総雨量と地震動を再現、複合災害に対する新工法を検討
大地震と集中豪雨が同時に発生することは稀(まれ)だが、時間差で発生し、道路や鉄道を構成する盛土に被害を及ぼした事例は多い。2004年には台風23号の降雨で地盤が緩んだ状態で、新潟県中越地震が発生し、高速道路や鉄道の盛土構造物に多くの被害を及ぼした。2024年9月の能登半島豪雨では、同年1月に発生した地震によるダメージが蓄積していたところに集中豪雨を受け、土砂災害の範囲が拡大した。
今後も、南海トラフ巨大地震などの地震、激甚化/頻発化する豪雨や線状降水帯により、深刻な複合災害が発生する可能性は否定できない。そこで大林組は、地震と降雨の複合作用を考慮した実験が可能な遠心場降雨発生システムを大林組技術研究所のダイナミックス実験棟に導入した。
システムは、縮小模型に対して遠心力を作用させて地震動や構造物に働く力を与え、震度7クラスの巨大地震を再現する遠心模型実験装置に搭載。既存の実験設備では再現できなかった複合災害を疑似的に発生させ、複合災害の被害軽減に有効な工法の検討や災害対策に役立てる。
システムでは、降雨により、地中の水分量が増加して不安定化した地盤が崩壊するまでを再現する。弱雨〜強雨までのさまざまな降雨強度、最大で2000ミリの総雨量が可能で、地震動については降雨後に地盤内の水分量が増加した状態での作用、または地震動のダメージが蓄積した状態で降雨の影響をシミュレートできる。そのため、従来はなかった降雨と地震の複合作用を考慮した評価手法の構築や新工法の検証が実現する。
対象とする構造物は、高速道路や鉄道の盛土構造物だけでなく、斜面や河川堤防、ダムなどの土構造物も含み、降雨や地震発生後の警戒レベル設定にも役立てる。
大林組は今後、遠心場降雨発生システムを活用し、降雨と地震の複合災害に強い土構造物を構築する新たな工法を開発するとしている。
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