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ロボットカーレースが転機となった「SLAM」は何がスゴイ?【土木×ICTのBack To The Basic Vol.2】“土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(29)(2/2 ページ)

自動運転やAGVをはじめ、建設業界でも運搬ロボやドローンなどの用途で使われている「SLAM」。Simultaneous(同時に起こる) and Localization(自己位置推定) Mapping(地図作成)の略で「位置推定と地図作成を同時に行う」を意味します。位置推定と地図作成を同時に行うとはどういうことでしょうか。今回は、米国防高等研究計画局のロボットカーレースで広く知られるようになったSLAM技術を改めて解説します。

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画像は「Visual SLAM」、レーザーは「LiDAR SLAM」

 SLAMでは自らの位置と目印の位置の両方が不明な場合、下図のように誤差も含まれますが自分と目印の位置を同時に推定していく問題を解くことになります。また、それを通して周辺の地図も作成していくこともできます。連載23回でも取り上げた画像やレーザー計測がよく用いられ、画像の場合は「Visual SLAM」、レーザーは「LiDAR SLAM」と呼ばれます※4

SLAMの概念。実線:実際の位置,点線:推定された位置
SLAMの概念。実線:実際の位置,点線:推定された位置 出典:※4

※4 BUILT “土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(23)「点群とAIを土木の設計や維持管理に応用する最新の技術動向【土木×AI第23回】」

 1980年代から、惑星探査ロボットの位置を周辺の画像で推定することが試みられてきました※5。SLAM技術は、米国防高等研究計画局(DARPA:Defense Advanced Research Projects Agency)による自動運転車レースの「DARPAグランド・チャレンジ」で2005年に優勝したスタンフォード大学などの「Stanley」で良好な成績を納めたことが契機となって、広く注目されるようになります※6。現在では掃除や配膳のロボットにも取り入れられ、日常に溶け込む身近な技術になっています。土木の現場でも、運搬ロボット※7、自律飛行によるドローン点検への適用※8、9などの事例があります。

※5 “Two years of Visual Odometry on the Mars Exploration Rovers"Mark Maimone,Yang Cheng,Larry Matthies,2007,Journal of Field Robotics,Wiley Online Library

※6 “Stanley: The robot that won the DARPA Grand Challenge"Sebastian Thrun,2006,Journal of Field Robotics,Wiley Online Library

※7 「インフラのデジタルツインを実現するi-Con Walkerの資材搬送実証」山崎文敬,柿市拓巳/AI・データサイエンス論文集4巻2号p84-88/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2023年

※8 「画像特性の変化に頑健な護岸のひび割れ検出モデル作成手法の検討」吉田龍人,藤井純一郎,大久保順一,天方匡純/AI・データサイエンス論文集2巻J2号p37-46/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2021年

※9 「Semi-autopilot UAV flight path control for bridge structural health monitoring under GNSS-denied environment」Katrina Montes,Sal Saad Al Deen Taher,Ji Dang,Pang-Jo Chun/AI・データサイエンス論文集2巻2号p19-26/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2021年

AI×SLAMの可能性、画像から高精度の3次元形状を生成する「NeRF」

 画像のAI技術が進むにつれ、Visual SLAMにAIを取り入れる研究開発も進んでいます。少数の画像から高精度の3次元形状を生成する深層学習ベースの手法「NeRF(Neural Radiance Fields)」に関心が集まっています。3D空間内の点座標(3次元)と視線の方向(2次元)の5次元の入力に対して、対応する点の色(RGB値)と密度を出力するように学習することで、リアルな3次元シーンを作成する方法です。

 下図の上のような実際の構造物に対し、NeRFを適用して、撮影していない視点からの画像を生成したのがその次の図です。周辺の環境も含めて鮮明に再現できていることがわかります。NeRFをSLAMに取り入れることで、形状としても画像としても高い精度を出せることが報告されています※11

構造物の実際の画像
構造物の実際の画像 出典:※10
NeRFによる新規の視点からの生成画像の例
NeRFによる新規の視点からの生成画像の例 出典:※10

※10 「デジタルツイン点検実現に向けたNeural Radiance Field 活用の試み」阿部真己,持田史佳,渡邊凌/AI・データサイエンス論文集5巻3号p286-294/「科学技術情報発信・流通総合システム(J-STAGE)」/2024年

“The Dawn of LMMs: Preliminary Explorations with GPT-4V(ision)”Zhengyuan Yang, Linjie Li, Kevin Lin, Jianfeng Wang, Chung-Ching Lin, Zicheng Liu, Lijuan Wang/arXiv:2309.17421/Submitted on 29 Sep 2023 (v1)

※11 “NeRF-SLAM: Real-Time Dense Monocular SLAM with Neural Radiance Fields”Antoni Rosinol,John J. Leonard,Luca Carlone/arXiv:2210.13641/Submitted on 24 Oct 2022

 画像やレーダーなどの計測で地図を作成し、同時に自己位置を求めるSLAMはGNSSが利用できない場合などに有効な方法です。また、SLAMで得られる周辺環境の三次元マップも点検や施工管理への適用が試みられています。AIとの融合が進むにつれて、ますます精度が向上し、ユースケースも広がっていくものと期待されます。

著者Profile

阿部 雅人/Masato Abe

ベイシスコンサルティング 研究開発室 チーフリサーチャー。防災科学技術研究所 客員研究員。土木学会 構造工学委員会 構造工学でのAI活用に関する研究小委員会 副委員長、インフラメンテナンス国民会議 実行委員を務める。近著に、「構造物のモニタリング技術」(日本鋼構造協会編/コロナ社)がある。

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