爆薬供給から装薬孔装填まで完全機械、大成建設が「T-クイックショット」を機能拡張:山岳トンネル工事
大成建設は、発破掘削の装薬作業を高速化する爆薬装填装置「T-クイックショット」を改良し、無線電子雷管対応型に機能拡張した。これまで切羽近傍で人力で行っていた爆薬の結線などの近接作業が不要になる。
大成建設は2024年10月3日、発破掘削の装薬作業を高速化する爆薬装填(そうてん)装置「T-クイックショット」を改良し、無線電子雷管対応型に機能拡張したと発表した。爆薬の供給から装薬孔への装填までを完全に機械化し、これまで切羽近傍で人力で行っていた爆薬の結線などの近接作業が不要になる。
装薬作業で取り扱う火薬類は有線式のため、現状では、爆薬装填後に作業員が切羽近くで長時間にわたり結線作業を行う必要がある。安全性や生産性の観点から、結線作業が不要で、切羽から離れた位置で爆薬を装填できる技術の実用化が求められていた。
そこで大成建設は2023年、爆薬を機械的に装填する装置として、アクティオと共同でT-クイックショットを開発。さらに今回は日油の「無線電子雷管ウィンデット2システム」を搭載することで、親ダイ(起爆用ダイナマイト)と増ダイ(親ダイ以外の爆薬)の両方を同時に、切羽から離れた位置から遠隔操作で装填できる装置に改良した。
標準仕様ではトラック1台に装置2台と空気圧縮機、ホースリールを積載。装置1台当たり、親ダイ78本(無線電子雷管、紙巻含水爆薬直径25ミリ×100グラム)と増ダイ300本(紙巻含水爆薬直径30ミリ×200グラム)を格納し、トラック1台で一般的なトンネル断面での使用爆薬量に対応する。
無線電子雷管対応型T-クイックショットの概要
新装置では、爆薬の装填はまず、切羽から1.5メートル程度離れた場所で長さ1.5〜2.0メートル装填パイプを装薬孔に差し込み、潤滑水を含んだ圧縮空気により、装薬装置本体から親ダイ/増ダイを圧送する手順で行う。空隙の少ない密な装填が可能となり、増ダイ後方に砂や粘土などの込め物を詰める作業が不要になる他、爆薬のエネルギーが岩盤に確実に伝達され、効果的な発破を実現する。
また、従来のT-クイックショットによる増ダイ供給に加え、親ダイを格納/供給するホッパーを追加。親ダイと増ダイが機械的に同時供給可能になった。親ダイに搭載する無線電子雷管は事前に充電と通信設定が必要だが、新装置の供給ラインの中途に無線給電装置を設けることで、供給から充電、通信まで連続的に行える。
さらに、従来のT-クイックショットの操作リモコンと、無線電子雷管の通信に必要なタブレットPCを連携することで簡単に操作できるようにした。操作ステップが少なく、一度の装薬作業にかかる時間は充電時間を含めて約1分で完了する。
親ダイと増ダイを装填する「親ダイモード」では、親ダイ1本に対して増ダイの数を最大4本まで同時装薬できる。硬質地山や長孔発破への適応を考慮し、増ダイのみを追加装填できる「増ダイモード」も搭載し、1回当たり最大3本まで装填可能だ。
圧縮空気の圧力や潤滑水の供給状況、水温などは常時モニタリングしており、制御用モニターで稼働状況を可視化する。異常発生時には回転灯や音声連動した警報装置が作動して装置の稼働を停止。異常状態が完全に取り除かれるまで再起動できない仕様とするなど、多重の安全機能を備えた。
装置で使用する無線電子雷管は、内閣府の進める「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期」の課題「スマートインフラマネジメントシステムの構築」でのサブ課題の1つ「革新的な建設生産プロセスの構築」で開発を進めており、大成建設や日油は同プロジェクトに参加している。今後、SIPにおける無線電子雷管の確実な社会実装に向けた取り組みを進めるとともに、山岳トンネル掘削の自動化/機械化構想における装薬作業の最終目標である自動化技術の開発にも引き続き注力する。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- スマートコンストラクション:トンネル坑内の掘削出来形3D計測システムを大成建設が開発、計測作業2分で完了
大成建設は、山岳トンネル工事で、トンネル坑内の掘削出来形を迅速に把握できる3次元計測システム「T-ファストスキャン」を開発した。計測器設定、3次元計測、機械点測量、撤収といった一連の計測作業が計2分で完了する。 - スマートコンストラクション:山岳トンネル工事の発破掘削を震源に用いる「長距離地質探査法」をスマート化、大成建設
大成建設は、山岳トンネル工事の地質構造を調べる地質探査法を改良し、計測装置に無線通信を採用するなどスマート化を図った。アーム固着式受振器を採用しており、測定時間やコストの削減が可能となっている。 - 2025年度に実用化後は外販も視野に:大成建設がリコーのプロジェクターで300インチ墨出し投影に成功 共同開発はBUILTがきっかけ?
大成建設は、プロジェクションマッピングを利用した独自の墨出し技術「T-iDigital MARKING」をリコーとの共同で、投映面積を300インチに拡大させるなどの高度化を図った。プロジェクター技術を有するリコーが協力した契機となったのは、驚くことにBUILTのメールマガジンだったという。 - スマートコンストラクション:大成建設とアクティオが開発したミキサー車へ生コンを“自動供給”する「T-コンサプライヤー」
大成建設とアクティオは、生コンの使用量に応じてミキサー車のドラム回転数を自動制御し、吹付け機やコンクリートポンプへ生コンを自動供給する装置「T-コンサプライヤー」を開発した。 - カーボンニュートラル:建設用3Dプリンティングに適用できる新たな環境配慮コンクリート、大成建設
大成建設は、建設用3Dプリンティングに適用可能な環境配慮コンクリートを国内で初めて開発した。今回の技術で製作した建設部材は、コンクリートの性能を確保しつつ、複雑で多彩なデザインと機能を持ちながら、CO2排出量削減を実現。また、こういった部材を2022年度中に大成建設グループ企業が保有する大成ユーレック川越工場のリニューアル工事に実適用する。 - ICT:大成建設が特定小電力無線を用いた計測システムを開発、5年間継続でデータを取得可能
大成建設は、立山科学株式とともに、鋼材や鉄筋などに設置した歪センサーに送信機を接続し、920MHzの特定小電力無線を活用して、構造物の歪データを受信機に転送する計測システム「MSEN」を開発した。MSENは、適用することで、150メートルまでの通信距離で最大200台の送信機と通信でき、最大で5年間継続してデータを取得することで、インフラ構造物の状態を随時評価し、長寿命化に貢献する。