現場BIMの活用例 Vol.3 PCaメーカー「大栄産業」のBIM化はいかにして成功したか【現場BIM第7回】:建設産業構造の大転換と現場BIM〜脇役たちからの挑戦状〜(7)(3/3 ページ)
PCa(プレキャストコンクリート)製造工程とBIMの事例研究から、「パラメーター情報(データ)主導の連携」というフロントローディングの一つの在り方が見えてくる。それは、ゼネコン側でBIMモデルに最低限は、「鉄筋種類、長さ、重量、位置情報」といった属性情報(パラメータ情報)を登録し、BIMデータをPCaメーカー(その他専門工事会社)に渡すというデータ主導のワークフロー(ルール)であるべきだろう。
図面主導からデータ主導へ変換
さて、ここまでPCaメーカーの取り組みや意見を見てきたが、こうした取り組みやそのための努力は、確かに他社との差別化や競争力強化のために、各PCaメーカー自身が主体的に進めることが不可欠だとも考えられる。しかし、そのメリットの享受は?といえば、ゼネコン側も大いに受けられるはずだ(施主も)。熟練工不足でも構造体の精度が維持される、PCa短納期による工期短縮、ゼネコン担当者による数量確認の容易性、担当者間でのコミュニケーション円滑化、環境負荷の低減効果測定など、そのメリットは枚挙にいとまがない。こうした努力は全てPCaメーカーといった協力会社、専門工事会社に委ねておいてよいものだろうか。
現状、PCaメーカーはゼネコン側から、設計図書(図面)をもらう(図面主導型)。何百ページにも及ぶ図面を人が見て、必要な情報を探し、手作業で図面化している。これがBIMデータで連携されたらどうだろうか。確かにゼネコン側のBIMデータに、PCa製造に必要なほどの詳細なデータは不要だ。
しかし、BIMモデルに最低限は、「鉄筋種類、長さ、重量、位置情報」など、属性情報(パラメータ情報)が登録されている状態で、PCaメーカーがそのBIMデータをゼネコン側から受け取るワークフロー(ルール)になっていればどうだろうか(データ主導型)。せめてフロントで、そこまではパラメーターを登録しておいてはどうかということだ(もちろん必要な詳細度のモデリングはPCaメーカー側が行う)。
パラメーター情報は、これまでのやり方では施工図工が、その情報を探して製作図に記入するわけだが、パラメーター情報をRevitでPCaメーカーに渡すことで、タグという機能で2次元的にも自動出力でき、さらにはテキスト(CSV)などで出力すればデータ連携も可能になる。これにより、図面を読みに行く、探しに行くといった行為をなくせる。さらに、パラメーター情報をもとに、数量のカウント(積算)をコンピュータに任せることが可能にもなる。パラメーター情報で位置情報も取得すれば、位置関係についても寸法追い出しをコンピュータに任せられる。そのため、PCaメーカー側の業務効率は各段に上がるはずだ(もちろんPCaメーカー側で製造のために、詳細度の高いモデリングまで行うべきだ)。
そもそも、施工側や維持管理側にもパラメーター情報を登録しておくことの合理性がある。パラメーター情報を専門工事会社に連携すれば、施工側や維持管理側でも専門性の高い製作検討ができ、適正な費用や工期などの検討も容易になる。また、RFIDとパラメーター情報の連携で、RFIDリーダーをかざした品質検査が可能となるし、維持管理用の管理台帳アプリなどに連携することで、建物維持管理にも生かせる可能性がある。
フロントローディングの在り方を考えるきっかけに
今回のコラムでは、PCa製造工程という建設フローの一部分にスポットを当て、PCaメーカーの意見についてもレポートした。本レポートで私が主張したいのは、ゼネコン側でBIMモデルに最低限は、「鉄筋種類、長さ、重量、位置情報」といった、属性情報(パラメータ情報)を登録し、そのBIMデータをPCaメーカー(その他専門工事会社)に渡すという「データ主導のワークフロー(ルール)」だ。
本コラムの第1回で、「施工BIMがどのように機能するのか、あるいは施工BIMに持たせたい機能や効果はどのようなものかなどを検討しておくことは、プロセス全体の変革の議論にも生きてくるはず」と述べた。まさに、PCa製造工程とBIMの在り方の事例研究から、「パラメーター情報(データ)主導の連携」というフロントローディングの一つの在り方が見えてくるのではないだろうか。
著者Profile
山崎 芳治/Yoshiharu Yamasaki
野原グループCDO(Chief Digitalization Officer/最高デジタル責任者)。20年超に及ぶ製造業その他の業界でのデジタル技術活用と事業転換の知見を生かし、現職では社内業務プロセスの抜本的改革、建設プロセス全体の生産性向上を目指すBIMサービス「BuildApp(ビルドアップ:BIM設計―製造―施工支援プラットフォーム)」を中心とした建設DX推進事業を統括する。
コーポレートミッション「建設業界のアップデート」の実現に向け、業界関係者をつなぐハブ機能を担いサプライチェーン変革に挑む。
著者Profile
守屋 正規/Masanori Moriya
「建設デジタル、マジで、やる。」を掲げるM&F tecnica代表取締役。建築総合アウトソーシング事業(設計図、施工図、仮設図、人材派遣、各種申請など)を展開し、RevitによるBIMプレジェクトは280件を超える。2023年6月には、ISO 19650に基づく「BIM BSI Kitemark」認証を取得した。
中堅ゼネコンで主に都内で現場監督を務めた経験から、施工図製作に精通し(22年超、現在も継続中)、BIM関連講師として数々の施工BIMセミナーにも登壇(大塚商会×Autodesk主催など)。また、北海道大学大学院ではBIM教育にも携わる。
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