地方の建築塗装業がたどりついた「ITに不慣れな職人+DX」の方程式:第8回 JAPAN BUILD TOKYO(2/2 ページ)
建設現場で働く職人の多くはPCを使わず、キーボード操作にも慣れていない。神奈川エリア全域を地盤とし、建築塗装を中心に、足場の架設や防水工事も専門的に手掛ける熊澤建装が、いかにしてDXを推進してきたのか、その実例を紹介する。
スマホ上のLINEとGoogleのサービスを組み合わせる
まず、進捗管理では、現場の工事状況を職人がスマホで撮影し、画像をLINEで現場監督に送るようにした。画像を受け取った現場監督はPCにダウンロードした後、Google ドライブにアップロードして関係者と共有する。当摩氏は、「業務用アプリに抵抗感があった職人でも、スマホで使うGoogleのサービスに拒否感はなかった」と振り返る。
熊澤建装は塗装を中心に多くの工事を手掛け、約1万件の工事実績があるが、従来はしっかりとした現場管理が行われていなかった。現在では、現場監督が現場ごとにLINEでグループを作り、連絡/報告や現場写真などを管理し、常に施工状況が見えるようになった。工事状況の共有も、Google MeetのWeb会議で、担当営業も交えたリアルタイムでやりとりしている。
「Surveynote」で修繕図面をデジタル化
当摩氏は、LINEとGoogle ドライブを使った仕組みによって生産性が大きく向上したと語る。現場の施工状況が、日々Google ドライブで共有されるため、進捗の把握や問題箇所を発見しやすい。毎日の工事経過が手に取るように分かり、検査も効率的に行えるし、もし是正が必要な箇所があっても、即座に対処できる。施工状況は、施主や不動産管理会社などの工事関係者にも公開し、信頼感の醸成にもつながげている。
現在は、修繕図面のデジタル化に取り組み、野帳の代わりとなる現地調査の記録をデジタル化するクラウドシステム「Surveynote(サーベイノート)」を導入した。図面をスキャンしてiPadに取り込み、野帳としてタッチ操作で図面上に損傷箇所を入力する。当摩氏は、Surveynoteを「安価で、機能がシンプル。現場で使えるシステムは使い勝手が良い」と評価する。
熊澤建装が現場DXとして見い出したLINEやGoogle ドライブなどの無料や安価に使えるサービスを組み合わせた業務改善のスタイルは、アイデア次第で可能性が広がることを示している。現在、熊澤建装では建設会社のみならず、不動産や店舗などの会社と協力し、業務を効率化するシステムを開発中だという。
当摩氏は、「熊澤建装はただの建築屋ではない。外壁塗装や防水工事の高い技術力に加え、DXにも強みを持って、顧客に寄り添う会社とし、3年以内に売上3倍を目指したい」と抱負を述べた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- “高さ日本一”更新、東京駅前に390m「Torch Tower」建設 大地震から守る秘密を三菱地所が解説
JR「東京」駅から徒歩1分の「常盤橋エリア」で、3.1ヘクタールもの都内で比類ない広大な敷地を対象に、「TOKYO TORCH」の街区名称で再開発プロジェクトが進められている。計画では、東京の玄関口に新たなシンボルとなる麻布台ヒルズを上回る高さ390メートルの「Torch Tower」が誕生する。 - 調査レポート:建設業従事者を対象に施工管理アプリの利用状況を調査、8割超が導入済み
「現場TECH」は、建設業従事者を対象に、施工管理アプリの導入状況を調査した。その結果、施工管理アプリを88.5%が既に導入済みと回答した。 - AI:建設業の請求書処理を電子化するAIベンチャー「燈」に聞く 独自のSaaSがなぜ中小ゼネコンに多数導入されたのか?
多数の中小ゼネコンでは、紙ベースの請求書で受発注などの処理業務を行っており、確認と承認の作業だけでも、仕分けや郵送、開封、移動の煩雑な手間と時間が生じている。解決策として、AIベンチャー企業の燈は、場所や時間を問わずにインターネットを介して、電子請求書の共有や確認、承認が行える建設業向けの請求書処理業務DXサービス「Digital Billder」を開発し、中小ゼネコンをメインターゲットに提案している。 - 導入事例:既存の賃貸住宅を対象にスマートロックの導入を開始、パナソニックホームズら
パナソニックホームズ不動産とミサワホーム不動産は、既存の賃貸住宅管理物件を対象に、2022年5月からスマートロックを導入している。スマートロックに関して、パナソニックホームズ不動産では、初年度7000台の導入を目指し、ミサワホーム不動産では首都圏を皮切りに今後全国展開を図っていく。 - “土木×AI”で起きる建設現場のパラダイムシフト(7):コンクリ施工の「配筋、締固め、検査」でも適用が進むAI【土木×AI第7回】
連載第7回は、インフラ構造物のコンクリート工事を対象に、活用の場が広がるAI活用について、最新研究の論文を複数引用して紹介します。 - 現場管理:ルクレ、ビルメン不動産管理向け報告業務デジカメを限定販売
ルクレは、ビルメンテナンス業、リフォーム業、不動産賃貸管理業向けに展開する写真報告書ソリューション「ZENGO」から、専用端末の報告業務DXデジカメ『ZENGOカメラ』を500台限定でリリースした。