建設業の請求書処理を電子化するAIベンチャー「燈」に聞く 独自のSaaSがなぜ中小ゼネコンに多数導入されたのか?:AI(1/3 ページ)
多数の中小ゼネコンでは、紙ベースの請求書で受発注などの処理業務を行っており、確認と承認の作業だけでも、仕分けや郵送、開封、移動の煩雑な手間と時間が生じている。解決策として、AIベンチャー企業の燈は、場所や時間を問わずにインターネットを介して、電子請求書の共有や確認、承認が行える建設業向けの請求書処理業務DXサービス「Digital Billder」を開発し、中小ゼネコンをメインターゲットに提案している。
多くの建設会社(元請け会社)では、協力会社(下請け会社)から毎月大量の請求書が紙で届くが、紙の請求書を処理する際には、協力会社、本社、現場のそれぞれで、郵送や開封の手間に加え、担当者の移動も必要となり、工事ごとの仕分けやステープラー(ホッチキス)での紙綴(と)じ作業といった手間が発生している。
一方、建設会社で利用している原価管理システムや会計システムに、請求書情報を手入力することも作業者の負担となっている。
そこで、燈(あかり)は、場所や時間に関わらずインターネットを介して、電子請求書の共有や確認、承認が行える建設業向けの請求書処理業務DXサービス「Digital Billder(デジタルビルダー)」を開発し、一般提供を2022年7月6日にスタートした。
今回、燈 SaaS事業部 部長 石川斉彬氏に、創業の経緯や建設業における請求書処理業務の課題、Digital Billderの機能と導入効果、今後の展望について聞いた。
150社の中小ゼネコンにヒアリングして開発
――「燈」創業の経緯
石川氏 創業者の野呂侑希氏は、東京大学に入学し、AIの研究で有名な松尾豊研究室主催の東京大学グローバル消費インテリジェンス寄付講座(GCI)※1で優秀賞を受賞して、東大発のAIベンチャー企業である松尾研究所に入社。東証一部上場企業とのAIプロジェクトでエンジニアとして参画した後、テクノロジーで社会に貢献したいという思いから、2021年に燈を創業した。
※1 東京大学グローバル消費インテリジェンス寄付講座:Webと人工知能を生かした研究を行うために必要な技能を身に付けることを目的とした講座
石川氏 創業にあたっては、“日本を照らす燈となる”をスローガンに掲げ、情報革命以降、日本企業の競争力が欧米や中国などに先を越されて、低下の一途をたどっている状況を踏まえ、AI技術を用いて日本を技術大国として復興させ、日本に再び光を当てる会社となることを目標に定めた。
現在、当社では、東京大学の研究者によって開発されたアルゴリズムを基盤に用いたAIモジュールを活用し、建設分野を対象にDXソリューション事業とAI SaaS事業を展開している。DXソリューション事業では、大成建設や東洋建設といったゼネコンと協業し、各社に対して、課題の抽出と解決策となる最適なAIの開発を行っている。AI SaaS事業では、さまざまなゼネコンやハウスメーカーが使えるSaaSを開発し、リリースしている。
――建設業における請求書処理業務の課題とDigital Billderを開発した意図
石川氏 建設業の請求書処理業務に関して、大手ゼネコンでは専用のシステムにより、電子データ化された請求書を迅速に処理可能な体制を構築しているが、大半の中小ゼネコンでは、紙の請求書を扱っており、請求書の処理上で必要な担当者の受領と承認のフローで、膨大な手間と多くの作業時間が生じ、負担となっている。
また、国内では、2022年1月に施行された「改正電子帳簿保存法」により、スキャナーで電子化した請求書をPC内などに保存後、原本の破棄が可能となり便利になった。だが、猶予期間はあるものの電子取引で受け取った請求書のデータを電子データで保存することが義務化されており、電子化された請求書をまだ印刷して紙で保管している中小ゼネコンは対応に迫られている。
なお、電子保存の義務化については、2年間の猶予期間が設けられ、2022年1月1日〜2023年12月31日の期間は紙での保存が許可されているが、2024年1月1日以降は、電子取引で受け取った請求書のデータを電子データで保存しなければならなくなった。
こうした法改正を考慮し、当社はAISaaS事業でDigital Billderを開発するに至った。開発にあたっては、DXソリューション事業で大手ゼネコンと協業し行ったAI開発の知見や150社の中小ゼネコンにヒアリングして得られた要望や意見も採り入れた。
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