「広島県動物愛護センター」移転新築の発注者と設計者が解説 BIMによる合意形成と完成後の利活用:Building Together Japan 2023(2/2 ページ)
広島県動物愛護センターの移転新築で、設計者の住建設計は、BIMソフトウェア「Archicad」とGraphisoftのビュワーアプリ「BIMx」を用い、施主の広島県とのイメージ共有や合意形成に役立てた。施設の完成後には犬や猫の出張譲渡会で、BIMxでウォークスルーを公開し、動物愛護活動のPRに用いたという。
BIMxのデータを施設のPRにも活用
新しい動物愛護センターは、BIM活用によって無事に工事が進み、2023年の6月に竣工を迎えた。
原氏は、「BIMを使うと、皆で楽しみながらプロジェクトを進めていける。施工者や発注者も巻き込んでチームを1つにできる」と感想を述べる。
良い建物を作るには、設計者だけではなく発注者も施工者も、同じ方向で、同じ熱意で臨まねばならない。原氏は、「その大切な部分を補うツールがBIMでありArchicadだ」とした。
面白いのは、プロジェクトに際し、発注者側の坂井氏には、「BIMを使う」意識が無かったことにある。坂井氏は「これがBIMっていうものだよと知ったのは、Building Together Japan 2023の話を聞いてから」と笑う。原氏もBIMを使うことを告げず、プロジェクトをスタートさせたようだ。BIMxの利用も、延長線上の「日常な感じで」BIMから切り出したパースやウォークスルーを提示したとのこと。
ただ、BIMであることを認識していなかった坂井氏も、BIMで管理された動物愛護センターのデータを施設のPRに活用する機会があった。具体的には、広島市内のショッピングモールで開催された犬や猫の出張譲渡会で、BIMxによるウォークスルーを公開した。
BIMの普及には、川上の基本計画段階からの活用が必要
今回のプロジェクトは、BIMを使うことに重点を置いたものではなかった。そのため、最終の成果物として納品されたのは、紙の図面/資料とCADのデータだ。ただ、原氏はBIMxのデータも自ずと渡している。
坂井氏は、BIMデータの活用法として、施設のPRや紹介に十分使えるとした。現在、動物愛護センターでは、保護された動物がどのような処置や手続きを経て譲渡に至るかを一般公開するバックヤードツアーを開催している。坂井氏は、「ツアーの紹介や説明にBIMデータを活用し、Web上で展開することも可能ではないか」と提案する。
行政の仕事では、基本計画を立案し、計画に沿った基本設計と実施設計が行われる。そのため、途中の段階からBIMを利用することは現実的ではない。坂井氏は、「基本計画や基本構想の段階でBIMの存在を伝えられれば、それがそのまま次の段階でも残っていく」との考えを示す。
発注者側がBIMを使う場面は、営繕という漠然としたイメージがあるが、行政の仕事では福祉や教育などからも発注されることが多い。そして、基本設計や実施設計の段階になると、建築のプロである営繕が発注してくる。「営繕の担当者だけではなく、もっとプロジェクトの川上にある基本計画段階くらいから、BIMを使ったボリューム検討をするような活用ができれば、もっと(BIMが)広がっていくと感じた」と感想を漏らす。
最後に原氏は設計者の立場として、小規模の物件や少しずつBIMを盛り込みながら発注する案件が広がれば、設計者側もレベルアップできるはずと提言し、トークセッションを締めくくった。
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