「天神ビッグバン」にみる都市DXの可能性【前編】ー「PLATEAU」やゼンリンの3D都市モデルをメタバースやBIMで活用するには?:都市DXフォーラム IN 九州(1/2 ページ)
本稿では、3D都市モデルをベースにした大規模都市開発でのDX活用をテーマとするフォーラム「都市DXフォーラム IN 九州」の各セッションを前後編で紹介する。前編では、天神地区を例にした国土交通省の3D都市モデル「PLATEAU」活用例と、ゼンリンが提供する3D地図データの有効活用方法を採り上げる。
日建設計は2022年12月13日、「都市DXフォーラム IN 九州」を開催した。3D都市モデルをベースにした大規模都市開発でのDX活用をテーマとするフォーラムで、福岡市のレソラNTT夢天神ホールが会場となった(オンライン同時配信)。
レソラNTT夢天神ホールの立地する地区では現在、「天神ビッグバン」の名称もとで多数の再開発プロジェクトが進んでいる。フォーラムでは、新たな街づくりを例に、特に3D都市モデルの活用によるDX推進とその可能性について議論を交わした。本稿では、その内容を前後編の2回に分けて紹介する。【前編】では、そのイントロダクションとして行われた2つのセミナーを中心にお送りする。
天神地区を例にした3D都市モデルの整備と活用
最初に登壇したのは日建設計 都市・社会基盤部門 シニア上席理事 岡田亨嗣氏。岡田氏は開口一番、「都市・社会基盤分野におけるDXとは?」という問いを会場に投げかけた。
その答えを岡田氏は、「目的に応じて作成した3D都市モデルをツールとして活用し、関係分野をつなげて業務をより効率化し、新しい価値や共創を図ること」なのだと話す。では、そこで使われる3D都市モデルとはどのようなものなのだろうか。
それは、従来の2次元地図などに代わり、都市の説明に用いられるツールであり、建築/道路/地形などの形状や高さを3Dデジタルで表示するモデルだ。3D都市モデルを用いることで、より分かりやすくイメージしやすい説明が可能となる。3D都市モデルには複数のタイプがあり、代表的なものとして、国交省が公開した3D都市モデルのオープンデータ化プロジェクト「PLATEAU」のデータと、ゼンリンが提供する3D都市モデルデータが存在する。両者は、その使用エリアやモデルの作り方、有償無償、更新期間が異なり、利用者はその違いを理解して選択する必要がある。
では、この3D都市モデルの利用により、どのような効果が期待できるのだろうか。天神地区の開発における多様な活用例を示しながら岡田氏は解説を進めた。
岡田氏は、1つ目の効用として、都市開発による都市景観や環境の変化を自由な視点で確認/検証できる点を述べ、2つ目に3D都市モデルで、さまざまなシミュレーションが可能となり、都市開発での課題把握や計画調整が容易に行えるようになる点を挙げた。3つ目には、点群測量データや設計BIMのデータを取り込んで、開発協議や設計に生かせる点を示し、4つ目は地下街や地下施設を含めて3D都市モデル化していくことで、地上/地下を一体のモデルで扱えるようになった点を説明した。
そして、最後の5点目には、ゲームやVR、AR、メタバースとの連携に触れた。例えば、仮想空間でのリモート勤務や在宅バーチャルショッピング、あるいは新奇なゲーム世界など、さまざまな仮想体験と対応する新規サービスの創出といった可能性が見込まれる。
こうした潜在的な可能性を持つ3D都市モデルだが、効果的に活用していくには、各モデルの精度に合わせた利用が欠かせない。PLATEAUでの精度区分(LOD=Level of Detail)を例に挙げながら、岡田氏は解説を続ける。
精度区分がLOD1のPLATEAUにおける対象範囲は「都市域」で、建物表現は「箱形モデル(大きさ+高さ情報)」となる。このモデルの特徴は「建物、道路の区分」なので、LOD1の利用想定は「土地利用計画や都市計画手続き、人流交通のシミュレーション、災害リスク評価」などにとどまる。
一方、LOD4の精度を持つPLATEAUモデルでは、対象範囲は「建物屋内」となり、建物表現も建物の「大きさ/高さ」はもちろん「屋根形状」や「外構(開口部)」「BIM/CIM」までも含め、「建築内部空間」を含む精緻なシミュレーションに役立つ。利用想定も、建物屋内と3D都市モデルの一体での屋内外をカバーしたシミュレーションが実現する。まさに精度レベルと対象範囲、利用目的の組み合わせが、3D都市モデルの活用ではカギとなるのだ。
最後に、岡田氏は、今後の都市・社会基盤分野でのDX推進における現状の課題についてまとめた。都市・社会基盤分野でのデジタル活用は、1.都市開発・基盤・まちづくり(BIM/CIM)、2.PLATEAUなどの3D都市モデル、3.ゲーム、VR、AR、仮想空間という3分野に分れており、現状は各分野でそれぞれ都市モデル活用法の実装を目指している。
だが、問題は3分野が重なり合った領域では、3D都市モデルを活用するための開発が遅れている。むろん、これからも各分野での3D都市モデル活用の具体化や新規開発が必要なことに変わりはないが、同時に重なる領域でも都市モデルを活用し、具体化していくことが一層重要になる。都市開発・基盤・まちづくり(BIM/CIM)関連では、地下地区のデジタル化やBIMとの連携データ管理の課題があり、ゲーム分野では、いかにして3D都市モデルデータをゲーム内に取り込み、ゲーム内に実装していくかが重要な問題になっていくだろう。
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