「ISO 30414」人的資本情報開示の保証、建設業界で初 BSIグループジャパンが山口重工業に授与:産業動向
BSIグループジャパンは、人的資本の情報開示に関する国際的なガイドライン「ISO 30414」人的資本情報開示保証を山口重工業に授与した。ISO 30414は、2023年3月期決算から上場企業などを対象に義務化される人的資本情報開示の要求に伴い、今後関心が高まることが見込まれている。
BSI(British Standards Institution:英国規格協会)の日本法人BSIグループジャパンは2023年11月14日、山口重工業に対し、BSIによると建築業界で初となる「AA1000AS v3(以下、AA1000)」に基づく、人的資本の情報開示のための国際規格「ISO 30414」の保証を行った。
「ISO 30414」は人的資本情報開示のためのガイドライン
ISO 30414は、2018年12月に国際標準化機構(ISO)が発表した内外のステークホルダーに対する人的資本の情報開示のためのガイドライン。人的資本に関するデータ収集、測定、分析、報告に関する指針を定め、重要かつ組織の成長に不可欠な情報について、11のエリアと58の具体的で定量的な測定基準を示している。ガイドラインの基準に照らしわせることで、経営戦略と連動した人材戦略が機能しているか否かを見える化する。
AA1000は、英国の「AccountAbility」が発行している国際基準で、自社のアカウンタビリティを理解し、効果的なサステナビリティ・マネジメントを検証するための枠組みを明記している。
今回の山口重工業への保証は、「Human Capital Report」の人的資本情報や人的マネジメントへの取り組みをAA1000に基づいて確認して、ISO 30414への適合性を検証し、レポートの正確性と信頼性と担保する。
BSIでは、ISO 30414のガイドラインによる人的資本のGAP分析や保証サービス、サステナビリティレポートの保証サービスを展開しており、建築業界でのISO 30414の保証は、山口重工業が初の事例となる。
山口重工業 代表取締役 山口豊和氏は、ISO 30414の第三者保証を目指した目的について、「社是の1つに最大の社会貢献は雇用の創出であることを掲げている。人財の成長こそが会社、ひいては社会の大きな価値となる。その想いに向けた当社の姿勢を、第三者からの保証を受けることで、社内外に発信していくことができると考えた」と話す。
保証に際しては、「人的資本のKPI設定の仕組み構築、人財ポートフォリオ作りの基礎データ、若手や中堅とのエンゲージメントに対する取り組みと改めて向き合った。導入制度や研修の再構築、人財ポートフォリオ作りにおける具体的な取り組みとして、アセスメントを行ったり、人事評価制度の見直しを行ったりと、社員一人一人の適性や持っているスキル、能力を明らかにしていくことに努めた。結果的に自社の社員の能力の棚卸のきっかけになり、人財のスキルの見える化につながった」と説明。
エンゲージメントサーベイも、より具体的な分析結果が確認できるものを導入することで、部署ごと、年層ごとなど多方面から、組織の見えない課題の抽出を可能にし、改善に取り組む体制を整えたという。
今後の展開では、「保証を受けるために設定した取り組みで終わらぬように、働きやすく、働きがいのある環境を整備し、自立した人財を育て、企業の成長にしていく。今回、ISO 30414の指標のもととなるデータをまとめていく過程で見えてきた課題もある。組織成長のため、1つずつKPIを設定しながら、個のキャリアパスとなるように取り組んでいきたい」とコメント。
BSIジャパン 代表取締役社長 漆原将樹氏は、「AA 1000に基づいたISO 30414保証に向けての取り組みは、まさに高齢化が進み、人材不足にあえぐ建設業界に風穴を風穴を開けるものだ。社員が、組織の未来を人的資本データで語ることができるようになったと山口氏の言うように、これこそがまさに“夢をカタチに”さらなるビジネスの成長と社会貢献の原動力になるものだと確信している」と総評している。
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