建設事業が自然に与える影響を定量評価 大成建設が開発着手:ネーチャーポジティブ
大成建設は、企業活動がもたらす自然環境への影響を「自然資本」への配慮や経済的要素などの観点から定量評価する「ネーチャーポジティブ評価手法」の開発に着手した。
大成建設は、企業活動がもたらす自然環境への影響を、自然が生み出す資源のストックである「自然資本」への配慮や経済的要素などの観点から定量評価する「ネーチャーポジティブ評価手法」の開発に着手した。
建設事業全体が自然資本に与える影響を定量的に把握可
自然資本評価の分野で研究実績のある九州大学馬奈木俊介教授の指導のもと、建設事業に特化し客観的に実証された評価手法としての確立を目指す。同評価手法により、各事業のNP貢献度を可視化、ステークホルダーに対する情報開示を支援し投融資獲得につなげる。
ネーチャーポジティブとは、2022年12月にカナダで開催された「生物多様性条約締約国会議(COP15)」で提示された概念で、カーボンニュートラルと並ぶ国際目標として「2030年までに生物多様性を含む自然資本の損失を食い止め、回復軌道に乗せる」ことを約束。そのため、各国企業は、今後自然への依存と影響に関する情報を開示する枠組みである「TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)」に沿う対応が求められ、サステナブル投資と同様に新たな評価指標となると想定される。
こうした背景から、大成建設のグループは、「生物多様性コンシェルジュシリーズ」や自然に倣った緑化技術による森づくりなど保有するNP技術を実プロジェクトに適用し、NPの実現と深化に取り組んできた。また、企業活動と自然資本についての科学的評価が不可欠だが、自然資本に対する評価の実施が遅れていることや国内の事例が少ないことが日本学術会議でも指摘されており、当面の課題となっている。
評価手法の特徴や利点として、施工だけでなく、開発範囲内の土地改変を含む「オンサイト」と、調達に関する「オフサイト」の2パターンに分けて評価し、建設事業全体が自然資本に与える影響をトータルかつ定量的に把握できる。オンサイト評価では衛星画像を活用し、オフサイト評価では既存のESG(環境、社会、ガバナンス)評価ツールを建設事業用にカスタマイズするなど評価レベルに合わせた適用が可能となっている。
自然資本の評価対象には、動物、植物、水、土、空気の主要な5要素を設定。個別の評価に当たっては、いきものの飛来予測を分かりやすく評価する「いきものコンシェルジュ」などを運用してきた経験とノウハウを生かし、多くの工事に対応したシンプルな入力で科学的に評価する手法となっている。
また、顧客に対しては、事業におけるNPへの影響度や貢献度を示す指数を算出することで、事業の実施前後の比較評価を可視化して提示。サステナブル投資などと同様の投融資獲得につながる情報開示の支援ツールとしての用途も想定されている。
今後は、ネーチャーポジティブ評価手法を用いたNP評価の一部の一般公開も予定している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- AIアシスタントとIoTで現場監督に環境変化を報告、MODEの「BizStack Assistant」
シリコンバレー発のIoTソリューションを提供するMODEは、作業現場の状況変化や異変を生成AIがチャットで報告する「BizStack Assistant」のβ版を提供開始した。リアルデータを活用し、分かりやすい自然言語で報告する。 - エステー×長谷工が「バーチャル森林浴」を賃貸マンションで検証 映像、音、香りで自然を疑似体験
長谷工コーポレーションとエステーが共同開発したマンション共用部に、自然空間を投影し、入居者にリラックス効果を与える「バーチャル森林浴」を実物件に導入した。 - 国交省、画像計測7技術をまとめた土工の点検支援技術性能カタログを策定
国土交通省は、土工構造物点検と防災点検に活用できる7つの画像計測技術をまとめた「点検支援技術性能カタログ」を策定した。 - 「星空保護区」でアジア初認定 南六呂師の「日本一美しい星空」を支えるパナソニックの照明技術
福井県大野市の南六呂師エリアが2023年8月に、ダークスカイが定める「星空保護区」のアーバン・ナイトスカイプレイス部門で認定を受けた。取得に際して、光害に対する厳しい規定をクリアしなければならず、エリアの街路灯を全て交換したパナソニック エレクトリックワークス社は、空に光が広がらない屋外灯の技術で貢献した。 - 冷凍食品製造の「食研」が愛知県豊橋市に55億円を投じ、新工場を新設
2023年で創業60周年を迎えた食研は、総工費55億円を投じ、愛知県豊橋市三弥地区にカツ類の生産工場を新設する。竣工は2023年12月1日で、生産能力は年間5000トンを見込む。 - モルタル表面の温度差で9割の確率で浮き部を検出 金沢大が研究する法面診断システム
金沢大学が開発した「のりメンテナンス うきでるくん」は、ドローンで撮影した赤外線画像をAI分析し、モルタル吹付法面の浮き部を検出する。打音検査前のスクリーニングに活用することで、作業の効率化が期待されている。