清水建設がオフィスビルの構造検討を“AI”で自動化 構造架構を1500棟分生成済み:コンピュテーショナルデザイン
清水建設は、設計初期段階の構造検討をAIで支援するAIを開発した。オフィスビルの形状や寸法を入力すると、瞬時に形状に合致する構造架構をデータベースから複数抽出し、躯体数量も表示して、構造検討の負担軽減につながる。
清水建設は2023年10月17日、設計初期段階で鉄骨造の構造検討を支援するAI「SYMPREST」を開発し、同時にクラウド上にWebアプリケーション化して社内運用を開始した。業務の高度化と効率化を同時に図ることで、設計者の働き方改革を進め、2024年度の改正労働基準法の適用に備える。
SYMPRESTの開発にあたっては、AIソリューション事業を手掛けるヘッドウォータース、ヘッドウォータースコンサルティングの協力を得た。
形状に合致する構造架構をデータベースから複数抽出
清水建設は、ものづくりのDNAと最新のコンピュテーショナルデザインを融合した独自のデジタルプラットフォーム「Shimz DDE」を拡張させ、構造設計に限らず設計業務全般の高度化と効率化を推進していくことを掲げている。
構造検討業務は、建物の形状や規模などのプランに応じた構造架構や部材断面の検討のこと。昨今、設計対応案件が増加傾向にあるなか、依然として設計の初期段階では頻繁なプラン変更が常態化しているうえ、複数案を同時検討することも珍しくない。こうした変更や同時検討には、構造の検討も伴うため、構造設計者の負担も増す。
そこで清水建設は、構造検討業務の効率化を図るとともに、事業者への高度でスピーディーな提案を可能とするデジタルデザイン手法として、SYMPRESTを開発した。
AIは、高さが60メートル以下の比較的整形な鉄骨造のオフィスビルに適用できる。検討中のオフィスビルの形状や寸法が入力されると、瞬時に形状に合致する構造架構をデータベースから複数抽出するとともに、躯体数量も併せて表示する。最終的には、設計者がイメージに合う構造架構を選択し、スパン構成などを微調整すると、AIが架構を構成する全部材の仮定断面を反映した3Dモデルをモニター上に生成。3Dモデルの部位をクリックすると、構成部材の断面寸法が示される仕組みだ。3Dモデルは、実施設計に用いる構造解析プログラムの入力データへの変換に対応しているため、解析の準備に要する時間や労力も大幅に削減する。
開発では、AIの学習データを整備するために、学習データ用の構造架構を自動生成するアルゴリズムを構築した。15階以下(地下無し)、1方向最大10スパンという条件の下、さまざまなオフィスビルの規模や形状に応じた構造架構データを現時点で約1500棟分を生成済み。SYMPRESTにこうしたデータを学習させることで、部材断面推定の習熟度を高め、今後は超高層オフィスや他の用途、構造形式の架構生成も行い、AIの機能拡充を図る。
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